『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第70回では、外からは見えない、TOB(株式公開買い付け)の実務について解説する。
ワンマン社長が選んだ「まさかの一手」
「当社の保有するブランドへの波及効果、海外戦略との融合による新規事業の開拓など、膨大な利益を生み出すことは確実です」
前回入手した新開発の超極細ファスナーの情報をもとに、大手商社・一ツ橋商事の役員会でプレゼンテーションを行った井川泰子は、新興アパレルメーカー・T-BOXのTOBについての承認を得ることに成功する。
そんな一ツ橋商事の動きが漏れたのか、T-BOXの株価は徐々に上昇を始めていた。主人公でT-BOXの創業者でもある花岡拳は、証券アドバイザーの牧信一郎、そして裏で井川にくみして、買収を進めようとする古参メンバー・大林隆二とともに、あらためて買収対策を検討する。
T-BOXの株主構成比率は、花岡が37%、創業期からの支援者で投資家の塚原為ノ介が30%、役員が8%、従業員が5%、取引先が3%、金融機関が2%、一般株主が15%という構成。TOBに応じるであろう取引先、金融機関、一般株主の株式を一ツ橋商事が握ると、全体の20%になる。
だが花岡は「なにもしない。静観する」と明言。さらには大株主である塚原との関係強化のための施策についても「会長は売らない」として、一切の対策を立てない、いわばノーガード戦法をとるのだった。
TOBは発表前から始まっている
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
当事者でもない限り、読者や一般投資家がTOBについて知るのは、「公開買い付けを開始する」という旨を買い手が発表するタイミングだと言っても、差し支えないだろう。だが実際には、買い手側の社内では長い準備期間を要することがほとんどだ。
いくらで買うのか。何株まで買うのか。買収資金をどう集めるのか。そして、買収後の利益をどう見込むのか――さまざまな条件を固めない限り、TOBには踏み切れない。
井川が新開発のファスナーの情報をもとに買収計画の承認を得ようとするのも、TOBという「巨額投資」に対して、その必要性を経営陣に納得させないといけないからだ。
実際にTOBを行う場合、買付価格や買付期間、買付予定数、買い付けの目的などの公告が必要で、これが上述した「ことが公になるタイミング」でもある。それ以外にも、公開買付届出書を内閣総理大臣へ提出するといった実務も伴う。
ちなみに、一般株主にとってTOBは、短期的には魅力的に映ることが多い。通常、買い手企業はTOB発表前の株価に一定のプレミアムを乗せた価格での買い取りを提案するからだ。
もちろんそれに応じるかどうかは、提示価格だけでなく、その会社の将来性や今後の見通しも踏まえた上での判断となるわけだが。
花岡は新型ファスナーの開発を急がせ、一方で井川はそれをどうにか遅らせたいそぶりを見せる。2人の真逆な態度に、大林は「なぜだ…なぜ2人はファスナーひとつにこんなにも…」と困惑を隠せないのだった。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







