世の中をあっと言わせる偉業を成し遂げた人は、どんなことを考えていたのか。サラリーマンでありながらサンダンス映画祭で日本映画史上初のグランプリを受賞し、『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』を上梓した長久允氏の思考を辿ります。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

脚本の教室Photo: Adobe Stock

小学3年生の考えていることが映画にできたら

 夏休みになると、子どもに何を体験させればいいのか悩む人は多いのではないでしょうか。

 旅行に連れていく。自由研究を手伝う。博物館や映画館に行く。

 もちろん、どれも素晴らしい体験です。

 けれど、もし今年の夏休みにひとつだけ新しいことをやるなら、子どもと一緒に「短い映画」を作ってみるのもいいかもしれません。

 映画づくりというと、難しそうに聞こえるかもしれません。

 ですが、長久さんは著書の中でこのように語っています。

 私は「家族や恋人との思い出のプライベート動画」こそ至高だと思っています

――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』p49より
 たとえば、近所の商店街の精肉店の店主が考えていることやルーティーンや見ている景色が映画になったらきっとおもしろいでしょう。たとえば、ある小学3年生の考えていることがすべて映画にできたらおもしろいでしょう。

――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』p114より

 特別な事件が起きなくても、遠い国に行かなくても、有名な人が出てこなくても、目の前の生活の中に映画のタネはある。

 例えば、近所の商店街を歩く。いつも行く公園を撮る。朝ごはんを作る様子を撮る。子どもが夏休みの宿題に向かう顔を撮る。家族でアイスを買いに行く道を撮る。

 映画はもっと身近で、もっと自由なものなのかもしれません。

「いい経験」より「想像以上の体験」を

 大人はつい、子どもに「いい経験」をさせようとします。

 何かを学ばせたい。成長につながることをさせたい。将来の役に立つ体験をさせたい。

 けれど、子どもがいま何を見て、何をおもしろがって何を怖がり、何を不思議に思っているのかを、じっくり聞く機会は意外と少ないのではないでしょうか。

 子どもにスマホを渡して、「今日は何を撮りたい?」と聞いてみる。
 あるいは、「いま頭の中にあることを映画にするとしたら、どんな話になる?」と聞いてみる。

 すると、大人には思いつかないものが出てくるかもしれません。

その子だけのクリエイティブのつくりかた

 そもそも、作品になるものは、立派なテーマや大きな事件だけではありません。

 長久さんは、TikTokに流れてくるような一般の人のVlogこそ目が離せない魅力があると言います。

 つまり、誰かの生活やルーティーンや見ている景色は、それだけで映像になる力を持っているのです。

 そして、それは世界の第一線で活躍するクリエイターの考え方とも通じるものです。

 そもそも自分だけしかわからない「個人的なもの」を作品にしてもいいのだろうか、と不安になるかもしれない。
 でも安心してほしいです。ポン・ジュノ監督が『パラサイト 半地下の家族』(2019年)でアカデミー賞を獲ったときにスピーチで、スコセッシ監督の言葉を引用してこう言いました。

「最も個人的なことが、最もクリエイティブなことだ」
 The most personal is the most creative.


 ポン・ジュノ監督の作品には、この思想が満ちているように感じます。彼が若いときに感じていた葛藤や暮らしのディテールが、ダイナミックなギャグとなって作品に定着しているように思うのです。


――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』p113より

 子どもが何をおもしろいと思っているのか。どんなことに引っかかっているのか。どんな視点で世界を見ているのか。

 その子にしかわからない「個人的なもの」を、おもしろがって形にしてみる

 それは、夏休みの自由研究よりもずっと自由で、ずっと忘れられない体験になるかもしれません。