一本数十万円のボルドーワインと、一本数百万円のブルゴーニュワイン。同じ高級ワインでも、両者のビジネスモデルは根底から異なります。「ブランド」を買い足して規模を拡大できるボルドーに対し、なぜブルゴーニュは「土地」に縛られ異常な価格高騰を招くのか。世界の富裕層が熱狂するワイン市場のカラクリを、地政学と歴史の視点から解き明かします。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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職人神話の王国
映画『ブルゴーニュで会いましょう』には、次のような辛辣なセリフが登場します。
「ボルドーには販促のプロや資本家、建築家ばかりで、醸造家がいない。スーツ姿のおすまし野郎にワインは造れん」。
少し偏見が過ぎる気がしますが(笑)、「スーツを着た商人のボルドー、農民のブルゴーニュ」という対比は、あながち間違いではありません。
例えば、世界で最も高価なワインの一つ、「ロマネ・コンティ」を造る〈DRC〉の本社を訪ねて、驚かない人はいないでしょう。
ヴォーヌ・ロマネ村に佇む建物は、大きな看板もなく、驚くほど地味で質素な石造りの家。
ボルドーのシャトーが「資本主義の勝者」を象徴する宮殿なら、ここは「テロワールの守護者」の静かな聖域のようです。
「土地」に宿る価値
ボルドーが「ブランド(シャトー)」を目指すなら、ブルゴーニュは単一区画の個性をボトルに封じ込める、究極の「土地のワイン」です。
テロワールという思想を極めたのも、ここブルゴーニュ。
「道を一本隔てただけでワインの味が変わる」などと言われるように、説明できない底知れなさが、ワインラバーを深い深い沼へと引きずり込むのです。
ブルゴーニュのワインは、ボルドーとは異なり、ピノ・ノワールとシャルドネという単一品種が基本です。
格付けは上から、特級、1級、村名、地方名(広域名)と、格が下がるごとに広範囲になっていくのが特徴です。
区画を重視する思想は、歴史が育んだ結果。
商業が発達させたボルドーと異なり、ブルゴーニュの礎を築いたのは修道士たちでした。
彼らはどの畑から最高のワインが生まれるかを徹底的に調査しました。
執念ともいえるリサーチ結果が、現在の土地の価格や名声に直結しているのです。
仏ブルゴーニュのワイン畑の風景(イメージ) Photo: Adobe Stock
究極のブランド戦略
ブルゴーニュの権威の頂点に君臨するのが、ロマネ・コンティの畑です。
かつて畑が売りに出された際、王の従兄弟であるコンティ公と、ルイ15世の愛妾ポンパドール夫人との間で激しい争奪戦が起きました。
天文学的な金額で競り勝ったコンティ公は、ワインを一切市場に出さず、自分と大切なゲストだけの秘蔵品にしてしまったのです。
お金があってもコネがなければ飲めない。
独占欲が生み出した希少価値こそが、今や一本数百万円で取引される伝説の土台となりました。
複雑すぎるワインの正体
しかし特権階級による独占の時代は、1789年のフランス革命で終わりを告げます。
革命政府は貴族の畑を没収し、競売にかけました。
実は、少しでも高く売るために、かつての所有者の名を冠して「ロマネ・コンティ」と名付けたのが、名前の由来といいます。
さらにブルゴーニュの運命を決定づけたのが、その後のナポレオン法典でした。
親の遺産は子供たちで等分割するという法律により、代を重ねるごとに、畑はパッチワークのように細分化されていったのです。
例えば特級畑のクロ・ド・ヴージョは、たった一枚の畑なのに所有者が約80人もいるという異常事態に!
同じ「クロ・ド・ヴージョ」と書かれたワインでも、所有する区画と造り手によって品質はまちまちです。
そのためブルゴーニュを攻略するには、畑の名前だけでなく「誰が造ったか」まで知らなければならない……。
品種はシンプルなのに、これがブルゴーニュを世界一複雑なワインにしている正体です。
(本稿は書籍『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より一部を抜粋・編集したものです)
ワインジャーナリスト/コラムニスト
1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。お茶の水女子大学理学部卒業後、大手通信企業を経てワイン業界へ。世界最大のワイン教育機関WSETが認定する、国内でも取得者の少ない最難関資格「Level 4 Diploma」を保持。
『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ワインをビジネスや文化の視点から紐解く一方、国内外の産地を精力的に訪問し、ストーリーを丁寧に紡ぐ執筆活動を展開。スーパーで手に入るデイリーワインからハレの日の1本まで等しく愛し、初心者目線の解説に定評がある。また、茶道や着物を日常に取り入れたライフスタイルを実践し、ワインと日本の美意識を交差させた独自の楽しみ方を発信している。趣味はアルゼンチンタンゴ。








