だれもが、影響力をほしがっている。人に動いてほしいのに、動いてもらうことがこれほどむずかしい時代もない。だからこそ多くの人が、褒め方や叱り方といった「人を思い通りに動かす方法」を探す。だが、影響力とは、ほんとうにそういうものだろうか。アパレル史上最年少で上場した株式会社yutori社長・片石貴展氏は、新刊で、その問いの立て方そのものが逆だと言う。人に影響力を持つ人ほど、相手を思い通りに動かそうとはしていない、というのだ。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局/淡路勇介)

自分の言葉で話せるようになりましょう。Photo: Adobe Stock

「マネジメント」の語源は、馬を操ること

そもそも影響力とは何だろうか。

それは、文字通り、「影」が「響く」力だ。
その人が同じ空間にいなくても、その人のことをつい考えてしまう。あの人ならどう言うだろう、と思い出してしまう。それが影響力だ。だとすれば、目の前で相手を力ずくで動かすことと、影響力とは、実はまったく別のものだということになる。

片石氏は、「マネジメント」という言葉の成り立ちから、これを説く。

マネジメントの語源はラテン語のmanus(手)で、もとをたどれば「手で操る」、つまり手綱を握って馬を思い通りに動かすことを意味するのだという。一方、「プロデュース」の語源は「前へ引き出す」こと。同じ人を率いる営みでも、向いている方向は正反対になる。

だからこそ、マネジメントするのではなくて、プロデュースする意識が大事だと思いました。操るのではなく、引き出す。押さえつけるのではなく、解放する。
――『自分の言葉で話せるようになりましょう。』より

「任せた」と言いながら、手綱を握っている

では、相手を思い通りに動かそうとすると、どうなるのか。

たとえば、こんな上司がいる。

部下に「任せたよ」と言いながら、毎日のように進捗確認のメッセージを飛ばす。あるいは、最初は任せておきながら、後から「あれは違った」「ほんとうはこっちが良かった」といろいろ言う。家庭でも同じです。子どもに「好きな進路を選んでいいよ」と言いながら、後から「あの大学、やめておけばよかったね」と蒸し返す親。配偶者に「好きにしていいよ」と言いながら、後から「あれは失敗だったよね」と振り返るパートナー。
――『自分の言葉で話せるようになりましょう。』より

口では「任せた」「好きにしていい」と言いながら、手綱は握ったまま。
信じていると言いながら、心のどこかで信じきれていない。
相手は、それを敏感に察する。やがてこちらの顔色をうかがい、こちらが喜びそうな判断ばかりを選ぶようになる。
そうやって動かされた人は、こちらがいなくなった途端に動かなくなる。仮にその場で動かせても、いない場所では何も残らない。影響力とは本来、自分がいないところでこそ働く力なのに、だ。

つまり、思い通りに動かそうとするほど、影響力からは遠ざかっていく。

変えられないものを、変えようとしない

では、影響力のある人は何をしているのか。

片石氏は、サーファーを例に出す。

うまいサーファーは、ただじっと波(=コントロールできないこと)を観察し、そのうねりを受け入れたうえで、「そこに自分がどう乗ってバランスをとるか」という自分の身体の動き(=コントロールできること)だけに集中しています。
――『自分の言葉で話せるようになりましょう。』より

人間関係も同じだ。
相手の感情や反応は、波と同じで、こちらには変えられない。変えられないものを無理に変えようとするから、支配や圧力になる。
逆に、相手は変えられないと認めてしまえば、できることのほうに集中できる。相手を信じ、コントロールしようとせず、その人の才能が発揮できるように動く。
不思議なもので、そうやって動かすことを手放した人のもとでこそ、人は自分から動きたくなる。そして、その人がいない場所でも「あの人ならどうするだろう」と考える。影が、響きはじめる。

人を動かそうと手綱を握るほど、影響力は逃げていく。影響力のある人ほど、他人を変えようとしない。変えられないものから手を離した人にだけ、人は自分からついていくのだ。

(本稿は、『自分の言葉で話せるようになりましょう。』の一部を引用したオリジナル記事です)