年間100世帯以上の相談にのる発達障害専門のFPで、ADHD当事者でもある岩切健一郎氏が書いた『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』が発売中だ。本書には「ここまで寄り添ってくれるお金の本は初めて!」「お金に苦手感のある人は全員読んだ方がいい」など、発達障害の有無にかかわらず、多くの口コミが寄せられている。
同書の刊行に寄せて、著述家でADHD当事者でもある小鳥遊(たかなし)さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)
※現在、正式な診断名は「発達障害」から「神経発達症」へ変更になっていますが、この連載では広く知られている「発達障害」という表現を用います。
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発達障害の就活
障害の有無を職場に開示するか。
これは、発達障害者として大きな問題です。
もちろん、障害がありながら立派に働いている方もたくさんいます。そして、発達障害を開示しつつ活躍している著名人も枚挙に暇(いとま)がありません。
ただ、私は自身のADHDの特性が影響して仕事が続けられなくなった経験があるので、一般雇用で働くときにはADHDであることを言わない方が良いと思っていました。
いったん周囲に開示したら、
「仕事の締切が守れないんだろう」とか、
「大事なことを忘れて仕事に穴をあけるんじゃないか」
と思われてしまうかもしれない。
そう思い込んでいた私は、2社目への就職活動のときには、注意深く応募書類を使い分けていました。
半年間ほど就活をし、ある上場企業の最終面接に進むことができました。
私としては、絶対に逃したくない会社です。首尾よく面接は進み、採用される雰囲気が濃厚になってきたそのとき、面接官がにこやかに言った質問に、私はフリーズしました。
凍りついた面接官からの質問
「心身ともに、健康ですか?」
これが面接官からの質問でした。
普通の質問なのにどうして? と思った方も多いでしょう。
次に、私の頭の中で0.5秒の間に展開された独り言を再現します。
「心身ともに健康」だって?
たしかに、ご飯は毎日美味しく食べられているし、こうして面接会場まで来ることができている。
その限りでは、自分は健康だろう。
しかし、前職で仕事がうまくいかずに出社できなくなった自分自身は相変わらずだ。
これを「はい!健康です!」と言い切ってしまっていいのだろうか。
きっと面接官は「働けるか」という意味で「健康ですか」と訊いている。
であれば、「いえ、健康ではありません。実は私にはADHDという特性があり障害者手帳を保有しておりまして……」と詳(つまび)らかに伝えるべきではないだろうか。
でもそれを伝えたら不採用になるかもしれないから、言わないでおくべきか?
おそらく、面接官は「まぁ、とりあえずの確認で」くらいの軽い気持ちで発したおなじみの質問だったことでしょう。しかし、ADHDで障害者手帳を保有していることを言わずに入社して良いのだろうか?と考える私には、面接官の笑顔が逆に刺さりました。
一瞬の間のあと、「……はい」と答えて、後日無事に合格の連絡を受けました。喉から手が出るほど欲しかった内定でしたが、同時に後ろめたさも抱えながらの入社でした。
言わなくてもいい、という救い
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』には、障害者手帳の保有と雇用形態の選択との関係について、明快で心強い一節があります。
手帳があっても一般雇用で働けます。
手帳を持ったまま一般雇用で就活している方や、就職した後に手帳をもらい、会社には何も伝えずにそのまま働いている人もたくさんいらっしゃいます。
そもそも、手帳の保有は面接で伝える必要はありません。
配慮を受けたい場合は障害者雇用が適切ですが、手帳があるから障害者雇用でしか働けないわけではありません。
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』(P.186)
最終面接に向かう自分に、この本を持たせてあげたかった。
障害者手帳は、能力不足の烙印ではありません。発達障害があっても、適切な環境調整があれば、自分の強みを発揮できる可能性が十分にあります。
目が悪い人がメガネをするように、
冷え症の人が夏場の冷房対策にカーディガンを羽織るように、
障害者雇用での配慮を受けるために障害者手帳を活用することもできる。
障害者手帳は、自分をうまく生かすためのひとつのツールに過ぎません。そして、そのツールを使うかどうかの選択権は自分にある。
そんなメッセージを、私は本書から受け取ったような気がしました。
だから、10数年前の自分には、「手帳を持っていることだけで、そんなに後ろめたくならなくていい」と声をかけたかったと、いまさらながら思っています。
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』はそんな人のための、当事者ならではの実感と経験、そして発達障害専門FPとしての知見が凝縮された一冊です。






