年間100世帯以上の相談にのる発達障害専門のFPで、ADHD当事者でもある岩切健一郎氏が書いた『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』が発売中だ。本書には「ここまで寄り添ってくれるお金の本は初めて!」「お金に苦手感のある人は全員読んだ方がいい」など、発達障害の有無にかかわらず、多くの口コミが寄せられている。
同書の刊行に寄せて、著述家でADHD当事者でもある小鳥遊(たかなし)さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)
※現在、正式な診断名は「発達障害」から「神経発達症」へ変更になっていますが、この連載では広く知られている「発達障害」という表現を用います。
Photo: Adobe Stock
少しずつサイズアップしていくフラペチーノ
頑張った自分へのご褒美が、実は心身が蝕まれていく予兆だった、という話を。
だれでも経験があるであろう、「仕事を頑張ったご褒美」。
帰りにコンビニに寄ってちょっとしたスイーツを買ったり、帰宅してシャワーを浴びてビールを飲んだりすることは、しっかり仕事をやり切った充実の証です。
でも、ずっと「ちょっとしたスイーツ」「1本のビール」だけで済みますか?
私の場合、最初は、途中の乗換駅にあるスターバックスのフラペチーノのショートサイズでした。
楽しげに過ごす店内のお客に混じって、冷たくて甘いフラペチーノとともに「仕事を頑張った満足感」を味わっていました。
私は疲れると冷たくて甘いものが欲しくなります。疲労度が高まるとそれだけ多くの「冷たくて甘いもの」を体が欲するようになります。いつしか、少し大きなトールサイズを頼むようになり、グランデ、そしてずっしり重たいベンティへと大きくなっていきました。
それでも、傍目(はため)から見れば、典型的な「頑張ったご褒美」の光景だと思います。
仕事をより一層頑張って、それに見合ったご褒美を用意する。500円台のショートサイズから600円台後半のベンティサイズへ。そのくらいの出費は許容範囲だと思えば、なんら悪いことはありません。
しかし、そのサイズアップは、心身が少しずつ蝕まれているサインだったのです。
実は税金だったご褒美代
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』には、こんな箇所があります。
ADHD特性由来の出費を指す海外でのスラングです。直訳するとADHD税。つまりADHDの特性が原因でかかってしまうコストのことです。
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』(P.111)
ADHDの特性があると、目の前の「気持ちよさ」や「回復感」に引っ張られやすくなることがあります。疲れている時ほど、「今すぐ楽になりたい」という欲求に抗いにくくなるのです。
まさに、私にとっての「フラペチーノ」がそれでした。そして、仕事が次第にキツく感じられるにつれて、欲求はエスカレートしていったのです。
そのうち、スターバックスに寄る余力もなくなり、人ごみの中で乗換をするのを避け、迂回して帰るようになりました。それでも、プラス200~300円でした。そうこうしているうちに、途中の駅で降りて間食をしたり、マッサージを挟むようになり、どんどん支出は膨れ上がっていきました。
そしてついには、電車で帰宅するのが億劫に感じられるようになり、1万円以上かけてタクシーで帰る日が多くなりました。今考えれば、かなり無理のある状態だったと分かります。でも、当時の私は完全に感覚が麻痺してしまい、「まぁ、こんな贅沢もありかも」などと思っていました。
同書の中では、ADHD TAXの一つとして、「疲労税」というものが紹介されています。
特性の強い人は、脳のエネルギー消費が激しく、1日を乗り切るだけでもクタクタになりがちです。そんな時、「今日は頑張ったから」と自分にご褒美をあげたくなるのも自然な流れです。
(中略)
ご褒美は必要だと思います。しかし、それが習慣化して出費につながるなら、少し対策を考える必要もあるかもしれません。
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』(P.119)
もし当時の私が、この「疲労税」という言葉を知っていたら。
最初は500円程度だった疲労税額が20倍以上にもなることで、「頑張りすぎじゃないか」というサインを察知して、対策を立てられていたかもしれません。
その後、タクシー帰りが増えたタイミングに合わせるかのように、仕事が続けられなくなり休職を余儀なくされました。その後、半年休んでも復職することはなく、そのまま退職することになりました。
今でも、時々スターバックスでフラペチーノを飲むときがあります。通常はトールサイズですが、「ベンティ頼もうかな......」と思うことがあります。そんなとき、「もしかしたら、自分は疲れているのか?」と「疲労税」を思い出し、休養が必要だとモードを切り替えるようにしています。
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』は、なぜ出費が増えてしまうのかを、特性の視点から整理してくれる本でもあります。毎日を乗り切るだけで精一杯で、本来なら使わなくてよかったお金を使ってしまっている人に、ぜひ読んでほしい一冊です。






