AIが生み出した雇用は
データ入力の単純作業

 卒業生たちの仕事探しの支援を手がけるのが、同じ建物に入る「ピープルショアーズ」だ。

 もともとはインドで発祥した企業で、低所得者が多い地域の若者を訓練して、テック企業から基礎的な仕事を請け負っている。クラークスデールの拠点は19年に開設。今では60人ほどが働く。

 クラークスデールのような田舎町の労働力になぜ需要があるのか。理由の1つが、AIを活用したサービスの広がりだ。

 ChatGPTなどの基盤となる最新のAI開発には、質のいい膨大なデータが必要となる。そうしたデータは人間がチェックして加工し、AIに教える必要がある。

 ピープルショアーズでは、AIの訓練に使うデータの整理やデータ入力支援などの初歩的な業務も手がけている。こうした仕事はこれまで、アフリカやインドなど賃金の安い新興国に発注されてきた。だが、言語や時差の障壁などがあり、英語が母国語の米国の労働者に一定の需要があるという。

 22年のミシシッピ州の世帯所得の中間値は約5万2700ドル(約820万円)と全米最低で、最高の首都ワシントン特別区(約10万1000ドル)の半分ほどしかない。貧困線以下で暮らす人の割合は22年で約2割と全米の州で最も多い。人口に占める黒人の割合は約4割で、全米で最も高い。

 その賃金の安さゆえ、企業側は比較的低いコストで発注できる。働き手にとっては、AIの訓練に使うデータの整理や入力支援といった仕事はリモートでできることが多く、地元にとどまって働くことができるメリットもあるという。

 ピープルショアーズのディレクター、ジョイ・ベイリーさん(60)は「企業にとっても労働者にとってもウィンウィンだ」と話す。

 ただ、オープンAIなどのAI技術向けのデータ整備の仕事は、アフリカのケニアなどでの搾取的な労働環境も問題となってきた。ミシシッピ州政府のエコノミスト、コーリー・ミラー氏は、データ入力などの初歩的な仕事は地域の労働者に「恩恵がある」としながらも、AIの進化で影響を受けると指摘する。

「AIの訓練やコンテンツ作りなど、AIで新しい仕事も生まれる可能性があり、ミシシッピにとっての機会もある。ただ、そうした恩恵を受けるためには、常に新しい技能を身につける必要がある」。ミラー氏はそう強調した。