AI業界がエリートだけでは
データの偏りはなくならない

 起業家として成功を収め、ミシシッピに足場を戻す人たちもいた。

 同州出身のナシュリー・セファスさん(39)は、AI分野の博士号をとった後、友人らと起業した会社を16年にアマゾンに売却した。同社でAIの倫理問題のチームを率いる。

 セファスさんは18年、地元の州都ジャクソンで、起業家らを支援する非営利団体「ビーンパス」を立ち上げた。ジャクソン中心部で8棟の建物と土地を買い取り、住宅や店舗、テック企業などの集積地をつくる。高齢者や若者、中小企業へのテクノロジーの教育支援などをおこなう。

「この土地で育って、会社をアマゾンに売るなんてクレイジーな話だけど、実現できた。ジャクソンから他の人も同じようなことができると信じている」。セファスさんはそう話す。

「アカデミーの卒業生で、有力企業に入った人もおり、そのパイプラインをもっと太くできる。ミシシッピが、優秀なリモートエンジニアで知られるようになる日が来ると信じている」

『ルポ・シリコンバレー AIブームと米国社会の断層を歩く』書影ルポ・シリコンバレー AIブームと米国社会の断層を歩く』(五十嵐大介、朝日新聞出版)

 黒人のテック労働者が増えることは、AIの改善にも寄与するとみている。

 買収後に入社したアマゾンでは、セファスさんは周囲で唯一の黒人女性のマネジャーだった。チームの大半が黒人というのは社内では珍しく、不快な言葉をかけられたこともあったという。

 マサチューセッツ大アマースト校の18年の調査によると、シリコンバレーの主要テック企業のトップの8割以上が白人男性だった。アマゾンの顔認識技術をめぐっては19年ごろ、訓練データの偏りから、黒人の女性を「男性」と誤認したことが社会問題となった。顔認識技術の担当者でもあったセファスさんは、最前線でこうした問題にかかわってきた。

「より多様な人種がテクノロジーにかかわれば、データのバイアスの問題もより早期に改善できる。テック業界の文化も変わってきたが、まだやるべきことは多い」。セファスさんはそう力を込めた。