ネット通販の「送料無料」という表示が、静かに姿を消しつつある。2026年4月、改正物流効率化法が全面施行され、荷物を出す側の企業にも物流を効率化する義務が課された。運ぶ手間にいくらかかっているのかを、誰もが直視せざるをえない時代である。実は「手間こそがコストを決める」というこの発想を、ドラッカーは60年以上前にすでに説いていた。利益を静かに食いつぶす正体を知れば、自分の仕事の見方も変わるはずだ。本連載では、膨大なドラッカーの著作を読み返し、その中から令和の現在に役立つ知を取り出して紹介していく。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

「送料無料」が消える日
通販サイトから「送料無料」の四文字が減っている。消費者庁は2023年12月、EC事業者に対し「送料当社負担」「◯◯円(送料込み)」といった表示への自主的な見直しを求める方針を打ち出した。
これを受けて、化粧品・健康食品の通販を手がけるファンケルは2024年5月から「送料は当社負担」への切り替えを順次進め、あわせて置き配やおまとめ配送にポイントを付ける取り組みを始めた。牛丼チェーンの吉野家も、通販サイトの表示を「送料込み」に改めている。
背景にあるのが、いわゆる物流2026年問題だ。2026年4月に改正物流効率化法が全面施行され、一定規模以上の荷主企業には、荷待ち・荷役の時間を把握して国に報告し、物流統括管理者(CLO=物流を経営レベルで統括する責任者)を置くことが義務づけられた。運送会社の努力に任せる時代は終わり、荷物を出す側が自分の「手間」を数えることを求められている。
この局面で読み直したいのがドラッカーである。1964年に世に出した『創造する経営者』は、企業のどこで利益が生まれ、どこでコストが生まれるのかを容赦なく解剖している。
利益を消すのは手間である
本書でドラッカーが繰り返し説くのは、きわめて単純な原理だ。利益は売上げに比例し、コストは作業量に比例する。稼ぐ量と、手間の量は別物なのである。
本書には、次のように書かれている。
小口注文の処理も大口注文の処理もコストは同じである。受注、日程管理、請求、集金のいずれも作業は同じである。
――『創造する経営者』より
5万ドルの取引も500ドルの取引も、伝票を切り、日程を組み、請求書を送る手間はほとんど変わらない。だが売上げは100倍違う。ならば小さな注文ほど、一件あたりの手間が重くのしかかる。
この原理を実証したのが、1963年にコンサルティング会社マッキンゼーが、アメリカ最大の加工食品メーカーであるゼネラル・フーヅのために行った食品店の分析だった。ドラッカーは本書でこの分析を紹介している。
シリアル一箱と缶入りスープ一箱の利幅は、1.26ドルと1.21ドルでほぼ同じ。店側は当然、どちらも同じくらい儲かっていると考えていた。
しかし、マッキンゼーの分析は、コストがそれぞれの商品に要する作業量によって異なり、品目ごとのコスト負担には大きな差のあることを明らかにした。
――『創造する経営者』より
結果は衝撃的だった。手間を計算に入れると、シリアル一箱の純利益は25セント、缶入りスープは71セント。3倍近い差である。さらにベビーフードは、利幅が大きく回転も速いのに、手間がかかりすぎて実際には赤字になっていた。
自社の「作業量」を数える
では、何を数えれば「手間」が見えるのか。ドラッカーは、その単位は業種ごとに違うと述べる。送り状の数、出荷件数、デパートなら来店客数、大型コンピュータのメーカーなら注文に至るまでの見積書の数。何を作業量の単位とするかを決めること自体が、事業を理解する第一歩だというのである。
これまでマネジメントは、事業を「作業の集まり」として見てこなかった、とドラッカーは指摘する。だが理論としてではなく具体例で腹に落ちれば、自社への応用は難しくない、とも本書は述べている。
この物差しをECにあてがうと、景色が変わる。3点まとめて買われた注文と、3日に分けてバラで注文されたものとでは、売上げが同じでも、梱包・出荷・配送・請求の手間は3倍になる。時間指定や再配達が重なれば、さらに膨らむ。
「送料無料」は、その手間を見えなくする装置だったのかもしれない。無料と書かれた瞬間、買う側にとっても売る側にとっても、運ぶ作業のコストは意識の外に出る。表示を「送料は当社負担」に改めるという地味な変更は、消えていた作業量を数えなおす作業でもあるのだろう。
60年以上前の原理が甦る理由
この「作業ごとにコストを割り振る」という考え方は、その後、活動基準原価計算(ABC)という手法として体系化された。だが、作業を一つひとつ記録・入力する負荷があまりに重く、管理会計の歴史においては「維持コストが高すぎて長続きしない」という大きな壁にぶつかった。原理は正しくとも、数えること自体が高くつく時代だったのである。
ところがいま、状況が変わった。ECの受注も、倉庫の入出荷も、トラックの荷待ち時間も、記録しようと構えなくてもデータが自動的に貯まっていく。数えるコストが下がったことで、「作業量で測る」という古い原理が、ようやく現実的な道具になりつつあるのではないだろうか。
荷主に荷待ち・荷役時間の把握を求める物流2026年問題も、この流れの上にある。60年以上前に書かれた原理が、制度の側から実行を迫られている。
その手間は、あなたの1日にも
そしてこれは、倉庫の外の話でもない。会議、承認、確認のメール、報告のための報告。知識労働の現場にも、売上げに結びつかない作業量は静かに積み上がっている。
目立つ成果を生む仕事は、たいてい少数だ。だが手間は、成果の大小に関係なく、ほぼ均等にかかる。小口注文と大口注文の伝票処理が同じ手間であるように、実りのない会議も、大きな決断を生む会議も、準備と出席の時間は変わらない。
自分の一日を「手間の数」で数え直したとき、最も割に合わない仕事はどれか。ドラッカーは本書で、分析に必要なのは正しい答えではなく正しい問いだと述べている。まず問うべきは、自分にとっての作業量の単位は何か、ということなのだろう。
利幅の大きな仕事が、必ずしも利益を生むとはかぎらない。60年以上前に示されたその事実は、送料の表示が書き換わるいま、静かに効き始めている。






