「ゆるい職場」なのに、なぜか若手がどんどん辞めていく――そんな悩みを抱える上司は多いはずだ。本稿を読めば、優しさだけでは人が育たない理由と、今日から実践できる対策のヒントが見えてくるはずだ。そのヒントは、経営学者ピーター・F・ドラッカーの『非営利組織の経営』に記されている。本連載では、膨大なドラッカーの著作を読み返し、その中から令和の現在に役立つ知を取り出して紹介していく。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

ドラッカー 成長の機会

働きやすいのに若手が辞めていく職場

 叱ることもなく、残業も少なく、居心地のよい職場をつくってきたつもりなのに、若手が次々と辞めていく。そんな逆風に戸惑う管理職は少なくないはずだ。

「ゆるい職場」というのは、負荷は下がったのに若手の離職がむしろ増えるこの現象のことで、背景に将来への不安の存在が指摘されている(労働市場を研究する古屋星斗氏による)。

 叱られることも、追い詰められることもない。それなのに若手が去っていく理由は、居心地のよさの裏側にある。

 彼らを動かしているのは成長できない焦りであり、この職場で将来やっていけるのか、という不安そのものなのだ。

要求こそが人を伸ばす理由

 このなぞを解く鍵は、本書に記された、ドラッカーとある経営者との対話にある。

 マックス・ドプリーとは、アメリカの大手家具メーカー、ハーマン・ミラー社の会長を務め、人材育成の名手として知られた人物だ。

 ドプリーは、若手への向き合い方についてこう語る。要求せずに失敗させるより、要求しすぎて失敗させるほうがよい、と。

 高い要求は人をつまずかせもするが、ドラッカーはこの対話のなかで、失敗を恐れる必要はないという立場を明快に示していく。

 この提言は、ドプリー一個人の経験談ではなく、対話全体を通じて語られた原則である。

人を育てる二つの条件

 ただし、ドラッカーは要求するだけでは足りないと釘を刺す。多くを求めるのであれば、必ず満たすべき条件が二つある、というのだ。

一つは失敗しても第二のチャンス、第三のチャンスを与えることです。挑戦してこない者は放っておきましょう。

――『非営利組織の経営』より

 もう一つは、そばで導く先生役を用意することだ。一度の失敗で見切りをつけず、何度でもやり直させる場を用意する。

 例えば、新人にあえて背伸びした企画を任せ、失敗しても頭ごなしに叱らず「次はどう変える?」と一緒に考える先輩を横につける。それだけで安心して挑める空気が生まれるかもしれない。

 厳しく求めながらも見捨てない先輩がいて初めて、要求は成長の燃料に変わるのだ。

「ゆるさ」の正体を探る

 ここで最初の疑問に戻ろう。「ゆるい職場」の本当の問題は、負荷が下がったことそのものではない。

 要求と、それを支える仕組みが同時に消えてしまったこと――それこそが「ゆるさ」の正体なのではないだろうか。

 本書には、働く人が本当に求めているものについて、こう書かれている。

自己実現の機会です。そして、働きがいのある共同体の一員になる機会です。意味あることに関わりをもつ機会です。

――『非営利組織の経営』より

 人は、楽をするために働いているのではない。誰かの役に立ち、自分が成長している実感を得たいのだ。

 若手が「ゆるい職場」を去るのは、まさにこの機会が見あたらないからだろう。人を育てる立場にある人に委ねられているのは、機会を手渡す責任である。

 それは派手な制度ではなく、要求と支えを日々セットで差し出す、地道な積み重ねの先にあるはずだ。

*この記事は、『非営利組織の経営』をベースに、独自の視点を入れて書き下ろしたものです。
*参考文献:古屋星斗(リクルートワークス研究所)『ゆるい職場――若者の不安の知られざる理由』