アステラス製薬は今年、名門とされる発酵創薬研究をやめ、海外の研究所も複数閉鎖する。王者の武田薬品工業を営業利益で上回り、業績は堅調だ。なぜ今、リストラを急ぐのか。その真相に迫った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)

 信じられなかった──。アステラス製薬は2013年度内に発酵創薬研究から撤退する。この決定に発酵創薬研究の責任者は耳を疑った。

 無理もない。05年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併してアステラスになって以降も、旧藤沢からの発酵創薬研究部門は社内外から名門と評されてきた。

 同部門は1984年、筑波山の土壌細菌から有効成分を発見、93年に免疫抑制剤「タクロリムス」を生み出した。移植手術の成功率を格段に引き上げ、旧藤沢は「移植医療に革命をもたらした」と世界で称賛された。

 タクロリムスの他にも、主力品の抗真菌剤「ミカファンギン」や多くの抗生物質を生んだ名門に終止符を打つという最終決断を下した畑中好彦社長と野木森雅郁会長は共に旧藤沢出身。断腸の思いだったことは想像に難くない。

東京ドーム4個分の広さを誇るつくば研究センターは、アステラス製薬の研究中核拠点。研究体制再編後、閉鎖した研究所の機能を集中させる Photo by Takeshi Yamamoto
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 研究体制の再編は5月に発表された。その計画では13年度内に発酵創薬研究から撤退し、米子会社2社の研究所閉鎖と米子会社1社の研究機能の大幅縮小も行う。15年度には大阪の研究拠点である加島事業所を閉鎖する。研究機能は、08年に創薬研究の中核拠点として設立した茨城県のつくば研究センターに集約される。

 研究組織を急いでリストラしなければならないほど経営が切羽詰まっているのかといえば、そうではない。足元の業績は堅調だ。

 12年度の売上高は前年度比3.7%増の1兆0056億円で、初の1兆円超えを達成した。営業利益は同17.0%増の1539億円で、業界首位の武田薬品工業の1225億円を超えた。