世界史は、地図で眺めると、人物や年号の暗記では見えなかった因果関係が浮かび上がる。では、スペインのサッカーは、なぜこれほどまでに熱いのか。強豪クラブの実力やスター選手の存在だけでは、その激しさは説明できない。カギを握るのは、意外にも国土に広がる山や丘だ。交通を分断し、地域ごとの結びつきと誇りを育てた地形は、レコンキスタやゲリラ戦を生み、現代のサッカー文化にも影を落としている。地図を開けば、歴史とスポーツを一本につなぐ「地形の力」が見えてくる。
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アルプスの山脈が、ヨーロッパの歴史を動かした
世界史を「地図」という視点で見たときに、いちばん発見が多い地域はどこか。そう聞かれたら、私はやはりヨーロッパだと思います。ヨーロッパは、地図で見ることで驚きが一気に増える地域です。
ヨーロッパ史というと、どうしても情報量が多くなります。百年戦争、宗教改革、国境の変化、王朝の興亡、文化の広がり。知識として覚えようとすると、ひとつひとつがバラバラに見えてしまう。けれど、地図をベースにして見ていくと、それらが急につながって見えてくるのです。
しかも、ヨーロッパは意外と狭い。狭い地域の中に、山脈があり、川があり、海があり、交通路があり、そこにいくつもの民族や国家や文化がひしめいている。だから、地図で見ると「なぜここで争いが起きたのか」「なぜこの地域が栄えたのか」「なぜ国境がこう動いたのか」が、かなり実感をもって見えてきます。
たとえば、アルプスの交通路がそうです。アルプスという巨大な山脈があることで、そこをどう越えるのか、どこを通るのかが、経済圏や都市の発展に大きく関わってくる。これは文章だけで読んでいても、なかなかピンときません。でも地図で見ると、山脈の存在がそのまま歴史を動かしていることがわかる。地形が、人の移動や商業の流れを決めているのです。
もうひとつ、地図で見ると面白いのがスペインです。スペインというと、なんとなく乾いた土地、荒れた土地、あるいは明るく開けた平地のイメージを持つ人も多いかもしれません。けれど、実際にはイベリア半島はかなり山や丘が多い地域です。平地の割合は決して大きくありません。
「ゲリラ」を生んだスペインの山と、まとまりにくい国の事情
この地形が、スペインの歴史に大きな影響を与えています。たとえばナポレオン戦争のとき、スペインでは民衆が山や丘に隠れ、奇襲をかける戦い方をしました。いわゆるゲリラ戦です。この「ゲリラ」という言葉の語源も、スペインでの戦いにあります。なぜそういう戦い方が生まれたのかといえば、そこにはやはり地形がある。山や丘が多く、身を隠しやすく、中央から一気に支配しにくい土地だったからです。
これは中世から続く特徴でもあります。スペインでは、イスラム勢力に対抗するレコンキスタ、つまりキリスト教勢力による半島再征服運動が長く続きました。その過程でも、山や丘といった地形は重要な意味を持ちました。外から攻めてくる勢力に対して抵抗しやすい一方で、交通網は分断されやすい。つまり、外敵がいるときにはまとまりやすいけれど、いったんその圧力が弱まると、各地域がバラバラになりやすいのです。
スペインは、目の前に共通の敵がいるときにはまとまります。レコンキスタが進んでいる時期には、集権化も進む。ところが、その動きが止まると、途端に地域ごとのまとまりが強くなる。だからスペインでは、中央集権がなかなか進みにくかった。今でも地方色が非常に強いのは、こうした歴史と地形の積み重ねの結果だと見ることができます。
サッカーは地域同士の“代理戦争”だった
そして、この地方色の強さは、現代のサッカー文化にもつながっているように思います。スペインのサッカーの試合が激しいのは、単に強豪クラブ同士がぶつかっているからではありません。そこには、それぞれの地域の誇りが乗っている。ある意味では、地域同士の代理戦争のような面があるのです。
そう考えると、スペインがサッカー大国になった背景にも、地形の影響を読み取ることができます。山や丘が多く、交通網が分断されやすく、地域ごとの個性が残りやすい。その積み重ねが、強い地域意識を生み、現代のサッカー文化にもつながっている。地図で見ると、歴史と現在がひとつながりに見えてくるのです。
だから私は、世界史を地図で見るなら、ヨーロッパがダントツに面白い地域だと思います。知識としては雑多に見える出来事も、地図の上に置いてみると、地形や交通路や国境の動きによって整理されていく。山脈が経済圏をつくり、丘陵地帯が戦い方を生み、交通の分断が地域意識を強くする。地図は、世界史を暗記科目ではなく、立体的な物語として見せてくれるのです。
(本稿は『地図で学ぶ「深読み」世界史』著者へのインタビュー記事です)









