しかし、こうした数字をそのまま鵜呑みにするのは危険です。漠然とした「敵国に攻め込まれるかもしれないという不安」が、軍備増強への抵抗感を消し去るという心理は、過去に他の国でも繰り返された「パターン」だからです。
「外敵の脅威」を利用する軍人に
尾崎行雄が鳴らした警鐘
尾崎行雄という日本の政治家は、そうした心理の落とし穴について、1929年に上梓した『軍備制限』という著作で指摘し、警鐘を鳴らしていました。
1890年7月1日に投票が行われた第1回衆議院議員選挙に当選し、以後63年間で連続25回当選という偉業を打ち立てた尾崎は、同書の中で、軍備に関するさまざまな問題を論じました。彼は、軍備増強を正当化する根拠として叫ばれる「外敵の脅威」が軍人によって誇張されたものである可能性を指摘し、読者に注意をうながしました。
「軍人もまた他の官吏と同じく、その管掌事務を拡張したいのは、当然の心情である。そして、その目的を達するがために、相手国に野心があることやその武備の強大さを誇張的に吹聴し、(それを)もって自国の危険を流布するようになる。そうしなければ世論を喚起して軍備に多大の経費を支出させることができないからだ。たとえ内心では、相手国より自国の方が強いことを知っていても、弱いがごとく吹聴し、世人を首肯させる必要を感じる」
尾崎は、一般民衆が軍事的な知識に乏しいため、専門家が各種の材料を列挙して盛んに「外敵の脅威」を鼓舞すれば、それが虚偽の事実に基づいたものであっても、これを看破する力がないことを心配していました。
そして、軍事予算を得るためになされる軍人の宣伝を一般民衆が鵜呑みにして、相手国の野心や自国の危険さを頭の中で想像し膨らませ、「いかなる困苦を忍んでも、軍備充実に必要なる経費だけは支出しようという心理状態になる」と、尾崎は警告しました。
帝国議会の衆議院議員だった尾崎は、諸外国の政治と軍事、国民と軍事の関係についても幅広い知見を有しており、軍人が自国民をだまして軍備予算の増大を呑ませるという図式も見抜いていました。彼の警鐘は、97年後の我々にもリアルに響いてきます。







