ある研究で、人々を「よく運動する人」と「ほとんど運動しない人」に分け、平均的な悪玉コレステロールの値を比較しました。結果を見ると、意外にも「運動する人の方がコレステロールが高い」という逆説的な数字が出ました。運動は健康に良いはずなのに、なぜこんな結果になったのでしょうか(図1‐3)。
ここで「年齢」という要因に目を向ける必要があります。データを年齢ごとに分けてみると、どの年齢層においても「運動する人の方がコレステロールが低い」という当たり前の関係が確認されました。若者でも中年でも高齢者でも、運動はコレステロールを下げる方向に働いていたのです。
同書より転載 拡大画像表示
ところが、全体をまとめて平均すると、逆の結果になってしまった。これこそがシンプソンのパラドックスです。
なぜこの逆転が起きたのか。そのカギは、運動習慣を持つ人の年齢分布にあります。若者よりも高齢者の方が運動をする割合が高く、そして高齢者はそもそも年齢の影響で、コレステロール値が高くなりやすい。
つまり、「運動習慣」と「コレステロール」の間には、実は「年齢」という第三の要因が潜んでいたのです。全体で見ると「高齢者が多く含まれるグループ(運動する人)の方がコレステロール値が高い」という結果になっただけであり、これは典型的な交絡の影響でした。
データは嘘をつかないが
因果関係までは教えてくれない
『「もしも」で命は救えるか?因果推論入門』(井上浩輔、光文社)
この例から学べることは2つあります。
第一に、全体の数字だけを見て判断してはいけないということ。年齢で分けるというひと手間を加えるだけで、真逆の結論が浮かび上がることがあるのです。
第二に、シンプソンのパラドックスは単なる数字のいたずらではなく、交絡によって説明できる現象だということです。年齢という交絡因子が、運動とコレステロールの関係をゆがめていたのです。
こう考えると、シンプソンのパラドックスは決して不思議なものではありません。むしろ「隠れた要因を考えよ」という強いメッセージを私たちに投げかけています。統計の数字は、一見正しく見えても、背後にどんな要因が潜んでいるかを見極めなければ、本当の因果関係を誤ってしまう。運動とコレステロールの例は、そのことを鮮やかに教えてくれるのです。







