「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく

「良い意見」を言う人より評価される人が、会議でやっている意外なことPhoto: Adobe Stock

発言の「質」と、評価は比例しない

 会議で誰よりも的確な意見を述べているのに、なぜか評価が伸びない人がいる。一方で、発言回数は決して多くないのに、「あの人がいると会議がうまく回る」と自然に評価される人もいる。

 両者を分けているのは、意見の質ではない。

 多くの人は、会議で評価されようと、「良い意見」を言おうとする。論点を整理し、データを揃え、説得力のある意見を組み立てる。それ自体はもちろん悪いことではない。

 しかし、どれだけ優れた意見でも、場の状況や他の参加者の理解とかみ合わなければ、議論は深まらない。実際、鋭い指摘を続けているにもかかわらず、「正論を言ってはいるが、議論を動かす人ではない」と受け止められてしまうケースは少なくない。

 なぜなら、会議の目的は「正しい意見を発表すること」ではなく、「関係者の間で意思決定を前に進めること」にあるからだ。

評価される人は、まず「場」を整理する

 評価される人を観察すると、一つの共通点がある。自分の意見を主張する前に、「今、この会議で何が論点になっているのか」を整理し、言語化しているのである。

 例えば、

「今、AさんとBさんは、同じことを違う言葉で話しているように思います」
「論点が、コストとスケジュールの二つに分かれていますね」

 こうした一言だ。これは新しい意見ではなく、議論そのものを整理するための発言である。

 この指摘によって、参加者全員が「今、何について議論しているのか」を共有できる。その結果、それまで平行線だった議論が動き始めることは珍しくない。

 評価される人は、自分の意見を主張する前に、全員の意見が機能する土台、すなわち「場」を整えているのである。

組織が評価するのは、「場を動かす力」

 組織にとって重要なのは、「誰が良い意見を言ったか」ではない。会議全体として、より良い意思決定ができたかどうかである。

 その意味で、論点を整理する人の価値は大きい。論点が整理されると、それまでばらばらだった参加者の発言がかみ合い始める。議論全体の質が上がり、意思決定は速くなり、判断の精度も上がる。その結果、一人分の成果ではなく、会議全体の成果を高めることにつながる。

 だからこそ、マネジメント層は「良い意見を言う人」よりも「十人の意見をつなぐ人」を高く評価することが多い

 評価されているのは、その人が持つ「場を動かす力」である。組織全体の意思決定の質を高めているからだ。

明日からできる、小さな工夫

 特別なスキルは必要ない。次の会議で、自分の意見を言う前に、「今、何が論点になっているか」を短く口に出してみるだけでいい。

「ここまでの論点は二つありますね」
「大きな方向性は一致していて、違うのは進め方ですね」

 こうした一言が、停滞していた議論を動かすきっかけになる。

 求められているのは、誰よりも正しい答えを出すことではない。議論が前へ進む状態をつくることである。こうした働きかけは、意識すれば、誰でも身につけられる習慣である。

会議にも生きる『戦略のデザイン』の視点

 これは、拙著『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』で扱っている「視点のデザイン」の考え方にも通じる。

 戦略とは、優れたアイデアを生み出すことだけではない。異なる視点を持つ関係者が、目指す方向と判断の前提を共有して初めて、戦略は実行へと移される。

 会議で論点を整理することと、事業の戦略を形にすることには、共通する考え方がある。自分の主張の正しさを示すだけでなく、場の視点をそろえ、議論や行動が前へ進む状態をつくり出す。

 その力が、個人の意見を組織の成果へとつなげていくのである。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。