「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく。
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すぐに結論が出る会議は、本当に良い会議なのか
――坂田さんは、これまで多くの企業の会議に立ち会ってこられたと思います。良い会議と悪い会議の違いは、どこにあると感じますか?
一番わかりやすいサインは、「結論が出るまでの速さ」です。
多くの人は、会議がスムーズに進み、全員がすぐに賛成してくれると「良い会議だった」と感じます。しかし私の経験では、それはむしろ危険信号であることの方が多いです。
そもそも、複数の人間がわざわざ集まり、すぐに全員が賛成するような意見に、本当に良いものがあるでしょうか。考え抜かれた戦略や、状況を変えるような打ち手というのは、たいてい最初は誰かに違和感を持たれるものです。
全員がすぐに頷く会議では、本来あるはずの異なる視点や違和感が、十分に共有されていない可能性があります。
――なぜ、共有されなくなってしまうのでしょうか?
その背景には、心理的安全性の欠如があります。心理的安全性という言葉はかなり広まりましたが、本質は非常にシンプルです。何を言っても馬鹿にされない。的外れなことを言っても、すぐに評価を下げられない。その前提があるかどうかです。
この前提がない組織では、人はリスクを取ってまで発言をしません。浮いた発言で評価を落とすくらいなら、黙って様子を見て、マジョリティが傾いている方向に合わせた方が合理的だからです。
これは個人の勇気や能力の問題ではありません。構造の問題です。どれほど優秀な人を集めても、この前提がなければ、本来あるはずの意見は表に出てきません。
異論が出たとき、会議の本当の質が見える
――心理的安全性が担保されている会議とされていない会議は、どこで見分けられますか?
私が見ているのは、反対意見や異論が出たときの空気です。
誰かが少数意見を言ったときに、場の空気が固まるのか。それとも「なるほど、それはどういうことですか」と自然に問いが重なっていくのか。この違いだけで、その組織の意思決定の質はかなり予測できます。
そして、この空気をつくっているのは、突き詰めるとトップの姿勢です。会議の進め方やファシリテーションの技術だけの問題ではありません。トップが普段どのように振る舞っているか。その影響は、会議の質に大きく表れます。
――トップの姿勢が会議の質を決めるというのは、具体的にはどういうことでしょうか?
トップが無意識に自分の優位性を示そうとしてしまう組織では、会議は機能しにくくなります。
自分の意見の正しさを示したい。自分が議論をリードする立場でいたい。そうした欲求がトップにあると、部下は本音を言わなくなります。やがて、トップの意向を先読みし、トップにとっての「正解」に沿った意見だけを出すようになります。
これは、いわゆる「正解探し」の会議です。トップが考える「正解」に、いかに早くたどり着くか。その競争になってしまうのです。
逆に、会議に限らずトップが人の話をきちんと聞く姿勢を持っていると、多様な意見が自然と出るようになります。その結果として、意思決定の質も高まっていくのです。
これは、部下が急に優秀になるという話ではありません。もともと持っていた考えや違和感を、安心して口に出せるようになるだけです。
場が変わると、同じメンバーからでも出てくる意見の質がまったく変わる。私はこれを何度も見てきました。
良い会議は、「正解探し」をやめることから始まる
――『戦略のデザイン』の観点から見ると、この違いはどのように位置づけられるのでしょうか?
拙著『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』でも述べているように、戦略は最初から正解を導くものではありません。試行錯誤を重ねながら選択肢を探り、その場に応じた答えを形にしていく営みです。だからこそ、本当に良い戦略を生み出すには、多様な視点がぶつかり合うプロセスが欠かせません。
ところが、合意形成が速い会議では、多くの場合、組織全体が「正解探し」のモードに入っています。誰かが持っている「答え」や過去の成功体験に、全員が最短距離で合わせにいこうとしている状態です。
一見すると効率的に見えます。しかし実際には、試行錯誤そのものが省略されています。
本当に最適な答えを形にしようとすれば、異なる視点がぶつかり、考え直しが起き、ときには遠回りに見える議論も必要になります。そのプロセスを経て初めて、組織として納得感のある意思決定が生まれるのです。
――では、良い決断を生む会議に変えていくには、どうすればよいのでしょうか?
方法はいくつかありますが、最も効果が大きいのは、あえて異論を出す役割を置くことです。
例えば、一人に「今日はあえて反対の立場から意見を言ってください」と、役割を渡す。それだけでも、場の前提そのものが変わります。
本来、異論を口にすることには心理的な負担があります。しかし、それを役割として与えることで、異論を述べることは個人の勇気だけに委ねられなくなります。
意図的に「異論が出ることを前提とした場」を設計することで、異論を述べること自体が、会議で期待される行動になるのです。その結果、これまで言い出しにくかった違和感や異なる視点も共有されやすくなります。
もう一つ大切なのは、結論を急がないことです。特にトップが「では、この方向で進めましょう」と早く締めたがる組織は注意が必要です。締める前に一呼吸置き、「ほかに気になっていることはありませんか」「何か違和感を覚えている人はいませんか」と問いかけるだけでも、それまで言い出せなかった違和感や懸念が表に出てくることがあります。
もちろん、こうしたテクニックはあくまで補助にすぎません。根本にあるべきなのは、トップ自身が、自分とは異なる意見を歓迎できるかどうかです。ここが変わらない限り、どれだけ新しい会議手法を取り入れても、やがて組織は元の空気へ戻ってしまいます。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
意思決定のスピードと質は、しばしばトレードオフだと言われます。しかし、私はそうは思いません。良い決断は、全員がすぐに同じ結論にたどり着くことから生まれるのではありません。安心して異論を口にできる場から生まれるものです。
もし自分の組織の会議が、いつも驚くほどスムーズに終わっているとしたら、一度立ち止まって考えてみてほしいのです。それは本当に良い決断を生み出す会議なのか。それとも、誰も本音を言えていないだけなのか。
正しい摩擦を会議に組み込むこと。それこそが、「正解探し」から抜け出し、より良い意思決定を生み出すための最初の一歩なのだと思います。
――ありがとうございました。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




