「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく。
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信頼された理由は、
「答え」ではなく「問い」だった
――坂田さんは、これまで多くのコンサルタントと仕事をされてきたと思います。特に印象に残っている、「成果を出した人」のエピソードはありますか?
よく覚えているのは、ある案件でチームに配属されてきた新人コンサルタントです。周囲は経験豊富なメンバーばかりでした。
一方、その人自身は業界知識もコンサルティング経験もほとんどありません。普通に考えれば、一番信頼を得るのが難しい立場です。
ところが、その人は毎日のようにクライアントのもとへ足を運び、「今、一番困っていることは何ですか」と問い続けていました。特別なフレームワークを使うわけでもありません。鋭い分析を披露するわけでもありません。
ただ相手の話を聞き、問いを重ねる。それを愚直に続けていたのです。
――それだけで、クライアントから信頼されるようになったのでしょうか?
そうなのです。しばらくすると、クライアントは何かあるたびに、経験豊富な他のメンバーではなく、その新人へ相談するようになりました。
ここが面白いところです。その人は、積極的にアドバイスをしていたわけではありません。最後まで相手の話を引き出すことに徹していました。もっとも、ただ漫然と聞いていたわけではありません。相手の話を聞きながら、「それは、どういう状況なのですか」「つまり、一番困っているのはそこなのですね」と問いを重ね、自分の頭の中でも課題を整理していました。
――問いを重ねることが、なぜ信頼につながったのでしょうか?
人は、自分の悩みや課題を誰かに説明しようとすると、自然と言葉を選び、考えを整理し始めます。そして、質問に答えながら話を続けるうちに、「本当に困っていたのはそこだったのか」と、自分で課題の本質に気づくことが少なくありません。
みなさんも、誰かに相談しているうちに、相手から答えを教えてもらったわけではないのに、自分で解決の道筋が見えたという経験はないでしょうか。
その新人は、この「整理されていく過程」そのものに価値があることを理解していました。
課題を丁寧に整理していくと、実際に手を動かして解決しなければならない本質的な問題は、たいていごく一部です。多くの悩みは、話しながら整理される過程そのものの中で解消されていきます。だからこそ、限られた時間と力を、本当に向き合うべき課題へ集中できるのです。
私は、その見極めができていたことこそ、この新人が信頼された最大の理由だったと思っています。
成果を分けるのは、
「自分起点」か「相手起点」か
――なるほど。それでも、「たくさんアドバイスすること」に価値があると信じている人の方が多そうですね。
そこが、本質的な分かれ目です。
自分起点の人は、無意識のうちに自分の満足度を高めようとします。自分の知識を伝えたい。自分の正しさを証明したい。頼りになると思われたい。本人に悪気はまったくないのですが、その結果として、相手がまだ整理できていない段階で、自分の中にある「答え」を渡そうとしてしまいます。
一方、成果を出す人は徹底して相手起点です。コミュニケーションであれば、相手は何を考えているのか。営業であれば、相手は何に困っているのか。そこから考え始めます。
だから、すぐにアドバイスをしません。まずは相手の話を最後まで聞き、本当に解くべき課題は何なのかを一緒に整理していくのです。
――「アドバイスするコンサルタントは二流」という言い方を業界で耳にしますが、それも同じことでしょうか?
その通りです。
コンサルティングでも営業でも、自分の知識や意見を先に話したがる人ほど、実は成果が出にくいと言われます。アドバイスというのは、多くの場合、相手の状況を十分に理解する前に、自分の中にある「正解」の押しつけ行為になりやすいからです。
拙著『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』でも述べているように、戦略は最初から正解を導くものではありません。試行錯誤を重ねながら選択肢を探り、その場に応じた答えを形にしていく営みです。
戦略立案を担うコンサルタントにとって重要なのは、「答え」を急ぐことではなく、「何を解くべきか」を見極めることです。
自分起点のコンサルタントは、自分の中にある答えを相手へ当てはめようとします。効率的に見えますが、相手の状況とずれていれば、いくら立派なアドバイスでも刺さりません。
一方、相手起点のコンサルタントは、相手の状況を理解し、本当に解くべき課題を一緒に見つけていこうとします。時間もかかり、遠回りに見えますが、そのプロセスを経るからこそ、的を射た答えへたどり着きやすいのです。
相手と一緒に「何を解くべきか」を見つける
――「信頼される相談相手」になるために、明日から実践できることがあれば教えてください。
一番シンプルなのは、相手にアドバイスをしようと意気込むのではなく、相手の話をよく聞き、質問を重ねる習慣をつけることです。
何か相談されたら、すぐに答えを返すのではなく、「どういう状況で困っているのですか」「どんな場面で、その問題が起こるのですか」「すでに何か試した対策はありますか」など、相手の状況を掘り下げてみてください。それだけでも、相手起点のコミュニケーションへ近づいていきます。
そしてもう一つ大切なのは、相手が話しながら考えを整理し、自分自身で答えに気づいていく、その過程を邪魔しないことです。
沈黙が続くと、不安になって先回りして答えを言いたくなる人は少なくありません。しかし、その沈黙こそが、相手自身が本当の課題に気づくために必要不可欠な時間でもあるのです。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
信頼される人とそうでない人の違いは、知識や経験の差だけで決まるものではありません。自分起点で考えるか、相手起点で考えるか。その思考の向きが、大きな違いを生みます。
新卒1年目でも、相手起点で課題に向き合うことができれば、経験豊富な人以上の信頼を得ることはできます。
もし今、成果が出ずに悩んでいるなら、一度問い直してみてください。
「相手の話を聞きながら、答えを渡そうとしているのか。それとも、本当に解くべき課題を一緒に探そうとしているのか」
その問いが変わるだけで、相手との向き合い方も、仕事の成果も、大きく変わってくるはずです。
――ありがとうございました。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




