「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく

資料作成がうまい人ほど陥る、落とし穴Photo: Adobe Stock

完成度の高さが、時に意思決定を止めてしまう

 きれいなレイアウト。作り込まれたグラフ。隙のない論理構成。誰が見ても、よくできた資料に見える。

 だが、資料作成が得意な人ほど、意外な落とし穴にはまることがある。「完成度の高さ」と「意思決定を動かす力」は、必ずしも一致しないからだ。

 資料作成が得意な人は、情報を漏れなく盛り込もうとする。背景、現状分析、選択肢、リスク、想定される反論への回答まで丁寧に整理する。その誠実な姿勢は、仕事の取り組み方として、決して間違っていない。

 しかし、その結果、資料は「よくできている」のに「結局どう判断すればいいのか」が見えなくなることがある。読み手は情報の多さに圧倒され、どこに意思決定のポイントがあるのかを見失う。

 その瞬間、資料は意思決定を助けるものではなく、かえって意思決定を遅らせるものへと変わってしまう。実際、時間をかけて作り込んだ資料ほど、「一度持ち帰って検討します」と言われ、そのまま止まってしまうことは珍しくない。

資料の目的は、「説明」ではなく「判断」を助けること

 資料は、情報を並べるためのものではない。相手の判断を助けるためのものである。

 意思決定者が求めているのは、網羅的な情報ではなく、「何を選べばいいのか」という問いへの答えだ。もちろん、背景や分析は必要だ。しかし、それらは結論を支えるために存在する。

 さらに、情報量の多い資料は読み手に、自ら情報を整理し、優先順位をつけるという負荷を強いる。

 この負荷が大きいほど、判断は先送りにされやすい。結果として、丁寧に作られた資料ほど「あとで読んでおきます」となりやすい、という皮肉な現象が起きる。

評価される資料と、されない資料の決定的な違い

 評価される資料には、一つの共通点がある。

 それは、最初に「何を決めてほしいのか」が書かれていることだ。そして、詳細なデータや分析は、その判断を支えるために後ろへ配置されている。

 つまり、資料は情報の集合ではなく、意思決定のプロセスそのものを設計したものになっている。

 言い換えれば、評価されるのは「情報量の多い資料」ではなく、「迷わず判断できる資料」なのである。読み手の意思決定にどれだけ寄り添っているかが、評価を分ける。

 若いうちは、情報量の多さが努力として評価されることもある。しかし、意思決定に近い立場になるほど、「何を残し、何を削るか」という設計力が問われるようになる。

明日から変えられる、資料づくりの視点

 次に資料を作るときは、完成した後で一つだけ確認してみてほしい。

 「この資料で、相手に何を判断してほしいのか

 その答えを一文で書き出してみてほしい。そして、そのメッセージは、資料の一枚目に書かれているだろうか。

 もし違うなら、相手の判断を助けるという視点から、資料の構成を考え直す必要がある。

『戦略のデザイン』に通じる資料づくり

 これは、拙著『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』で一貫してお伝えしている「戦略をデザインする」という考え方にも通じる。

 戦略も資料も、その価値は、どれだけ多くの要素を盛り込めるかではない。相手が迷わず判断し、行動できる道筋を描けるかどうかにある。

 集めた情報の中から、相手が判断するために本当に必要なものだけを残す

 相手の思考プロセスに寄り添ったその設計こそが、資料を説明の道具から、意思決定を動かす道具へ変えていくのである。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。