世界史で何度も登場するイギリスやフランスに比べ、東ヨーロッパの国々は位置も歴史もつかみにくいものです。なかでもポーランド、ルーマニア、ブルガリアは、同じ「東欧」にありながら、民族や宗教、国の成り立ちが大きく異なります。ポーランドはスラヴ系とカトリック、ルーマニアはローマ帝国につながるラテン系、ブルガリアはトルコ系のブルガール人を起源に持つ国。3国の違いから、複雑な東ヨーロッパを読み解きます。

【大人の教養】ポーランド・ルーマニア・ブルガリアの「決定的な違い」…東ヨーロッパが一気にわかる!Photo: Adobe Stock

なぜ東ヨーロッパは、こんなにわかりにくいのか?

 世界史を勉強していると、ヨーロッパの中でも、なんとなくイメージしやすい国と、そうでない国があります。

 たとえば、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペインあたりは、位置関係も比較的わかりやすいですし、世界史の中でも登場回数が多い。産業革命、フランス革命、ナポレオン戦争、宗教改革、ルネサンス、大航海時代など、具体的な出来事と結びつけて思い出しやすい国々です。

 一方で、東ヨーロッパになると、途端に輪郭がぼやけてくる人も多いのではないでしょうか。ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア。名前は知っているけれど、どこにあるのか、どんな歴史を持つのか、どう違うのかと言われると、なかなか説明しにくい。とくにルーマニアやブルガリアは、世界史の授業でも強烈なイメージが残りにくい国かもしれません。

 ただ、この地域は「東ヨーロッパ」とひとまとめにすると、かえってわかりにくくなります。実は、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアは、それぞれ成り立ちがかなり違うのです。

スラヴ系なのに「西側」に近いポーランド

 まず、ポーランドやチェコ、スロヴァキアは、基本的にはスラヴ系の国々として捉えることができます。スラヴ系という意味では、ロシアとも大きなくくりでは同じ流れに属します。ただし、宗教的にはロシアとは異なり、ポーランドやチェコ、スロヴァキアは西側のカトリック圏に近い地域です。つまり、民族的にはスラヴ系でありながら、文化的・宗教的には西ヨーロッパとのつながりが強い。このあたりが、東ヨーロッパの複雑さでもあり、面白さでもあります。

東欧なのにラテン系? ルーマニアとブルガリアの意外な起源

 それに対して、ルーマニアとブルガリアは、東ヨーロッパの中でも少し異色の存在です。まずルーマニアは、東ヨーロッパに位置していながら、ラテン系の国です。これはかなり意外に感じる人も多いと思います。ルーマニアという国名自体が、もともと「ローマ人の土地」という意味を持っています。かつてローマ帝国がこの地域を征服し、入植を進めたことが、その起源にあります。

 つまりルーマニアは、地理的には東ヨーロッパにありながら、歴史的にはローマ帝国とのつながりを強く持つ地域なのです。フランス、イタリア、スペインなどと同じように、ラテン系の要素を持っている。東ヨーロッパの国々をすべてスラヴ系だと思っていると、ここで見方が大きく変わります。

 一方、ブルガリアもまた独特です。ブルガリアは、もともとトルコ系のブルガール人がドナウ川下流域にやってきたことから始まります。現在のブルガリアは、長い歴史の中で同化が進み、かなりスラヴ化しています。けれど、起源をたどると、ポーランドやチェコ、スロヴァキアのようなスラヴ系の国々とは少し違う背景を持っているのです。

3国の違いがわかれば、東ヨーロッパは一気に見えてくる

 つまり、同じ東ヨーロッパでも、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアは、まったく同じ成り立ちの国ではありません。ポーランドはスラヴ系の国でありながら、西側のカトリック世界とのつながりが強い。ルーマニアは東ヨーロッパにありながら、ローマ帝国の影響を受けたラテン系の国である。ブルガリアは現在ではスラヴ化しているものの、もともとはトルコ系のブルガール人に由来します。こう整理すると、東ヨーロッパはかなり見えやすくなります。

 世界史では、どうしてもポーランドやハンガリー、チェコ、スロヴァキアは、第一次世界大戦や第二次世界大戦、あるいは冷戦の文脈で出てきます。そのため、なんとなく名前を聞く機会は多い。ところがルーマニアやブルガリアは、それに比べると印象が薄くなりがちです。

 しかし、この二つの国は、東ヨーロッパを理解するうえで非常に重要です。なぜなら、東ヨーロッパが単なる「スラヴ系の地域」ではないことを教えてくれるからです。そこにはローマ帝国の影響もあり、トルコ系民族の移動もあり、スラヴ化の過程もあり、さらに東方正教やオスマン帝国の影響も重なっている。

 東ヨーロッパがわかりにくいのは、国名が覚えにくいからだけではありません。民族、宗教、帝国の影響が複雑に重なっているからです。けれど、逆に言えば、その重なり方を整理すれば、一気に見通しがよくなります。

 ポーランドはスラヴ系でありながらカトリック圏に近い国。ルーマニアはローマ帝国の影響を受けたラテン系の国。ブルガリアはトルコ系のブルガール人に起源を持ち、その後スラヴ化した国。まずはこの違いを押さえるだけで、東ヨーロッパの地図はかなり読みやすくなります。

 東ヨーロッパは、名前だけを並べるとわかりにくい地域です。しかし、それぞれの国の起源に注目すると、単なる地図の暗記ではなく、民族と帝国が交差する歴史として見えてきます。ポーランド、ルーマニア、ブルガリアは、その入口として、とても面白い国々なのです。

(本稿は『地図で学ぶ「深読み」世界史』著者へのインタビュー記事です)