『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第74回では、企業買収の前後で変わる、「買う側」と「買われる側」の関係について解説する。
「コロリとだまされやがって…」
新興上場アパレルメーカー・T-BOXの社内は、外資系ファンド・サンデーキャピタルによる株の大量保有報告で大きく揺れていた。
T-BOXの創業者で代表の花岡拳は、社員に対して「たとえ今後、一般株主の分をすべて買い占められたとしても20%」と説明。自身や大株主、従業員といった株主の保有比率を超えることもなく、また大株主たちの構成は強固であるとして、社員の沈静化に動くのだった。
買収劇を裏から動かす一ツ橋商事の井川泰子と、サンデーキャピタルの福沢ウイリアム太郎はさらなる揺さぶりをかけ、花岡と社員の結束を崩す計画を立てる。
それと同時に会見を開き、今後もT-BOX株を買い進めることを説明。また、同社の海外戦略の立ち後れを理由とした組織改革を呼びかけるのだった。
「花岡社長、我々は敵ではない。最良のパートナーです」
心にもない「最良のパートナー」という言葉で、株式取得の正当性を訴える福沢。身勝手な性格の井川すらも「あいつ…根っからのウソつきだわ」と漏らす。
ところが、T-BOX社員の間では「世界かあ…夢が膨らむよなあ」「単独でやるより大手と組むのもありかも」といった声が広がる。長いものには巻かれろ、寄らば大樹の陰で「外資歓迎」のムードさえ漂い始めているのだ。
「完全に相手の思うツボ…コロリとだまされやがって…」
花岡は心の中で、そうつぶやくのだった。
買収前の「最良のパートナー」は、買収後も同じ顔をするか
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
買収をねらう側が、対象企業の社員や株主に対して明るい未来を語るというのはありがちな話だ。海外展開の支援、雇用やブランドの保護、シナジーを生かしたさらなる成長――いくつもの甘言はあろうと、買収前に描かれた未来が、そのまま実現するとは限らない。
古くはダイムラー・ベンツとクライスラー、AOLとタイム・ワーナー、クラフトとキャドバリーといった海外の大型統合もあったが、いずれも買収前のもくろみどおりの「最良のパートナー」とはならなかった。
日本でも、2016年に鴻海(ホンハイ)がシャープを買収したが、買収当初の「雇用を守る」という約束は、リストラによって反故にされた。
もちろん現実における買収の「失敗」は、漫画のように、初めからウソをついていたという話ではないだろう。買収後に初めて分かった社内事情やPMI(経営統合プロセス)の難度、市場環境の変化など、背景にはさまざまな要因があるはずだ。
だからこそ、買収前の美辞麗句ではなく、買収後の関係性や可能性をしっかりと考える必要があるという話である。
会見での福沢の言葉を真に受けて「外資歓迎」ムードとなるT-BOX社員たちを見て、いらだちを募らせる花岡。そんな花岡に、サンデーキャピタルからの電話がかかってくるのだった。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







