ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。今回のテーマは、仕事の自信。「自分は仕事ができない」と思い込んでいる人に、何が見えていないのか。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局、イラスト/武者小路晶子)

言い訳している人

発達障害当事者の私が発見した「この世の暗黙のルール」

――なちゅ。さんご自身も、かつては「仕事ができない人」だったそうですね。

なちゅ。:20代から30代でブラック企業の契約社員、外回りのパート、間に専業主婦、スタートアップのお手伝いと経験してきて、ずっと「仕事ができない人」として職場の隅っこで小さくなりながら、なんとか生きてきました。今は障害者支援の現場でマネジメントをやりながら講師業もしていて、世間には「できる人」として扱われるようになりましたが。

そんな私が発見した「この世の暗黙のルール」を、ひとつ明かしておきます。この社会では、「できないことは見せない」が基本仕様なんです。

仕事ができているように見える人たちは、できない部分を上手に隠して、一人前のフリをしている。それが処世術として、当たり前に回っている世界なんですね。

職場は「できてない」の博覧会

――とはいえ、まわりは自分よりできているように見えます。

なちゅ。:考えてみてほしいんです。仕事ができない人は、職場に当たり前にたくさんいます。むしろ数の上では、圧倒的にできない人のほうが多い。

報告が遅い人、指示が雑な人、確認せずに進めて事故る人、機嫌で仕事の質が変わる人。定型発達も発達障害も関係なく、職場というのは「できてない」の博覧会です。あなたが世界でひとりだけ劣っていて、周りは全員そつなくこなしている。そんな職場は、この世に存在しません。

――それでも仕事が回っているのは、なぜでしょう。

なちゅ。:仕事は協力してなんぼの世界だからです。人が織りなすコミュニティなので、誰もひとりで完璧になんてやっていない。みんな、できないことを隠して、フリをして、それでもお互いに助けられながら、なんとか回している。

だから、あなたがひとりだけ下の席で小さくなっている理由はないんです。まずはこの事実を認識するところが第一歩だと思っています。

測られることに、文句が言えない場所

――それでも職場でだけ自信をなくす、というのはよく聞きます。

なちゅ。:人を能力でジャッジするのは、本来なら失礼なことですよね。友人相手にそれを公然とやれば、関係は壊れます。

でも職場だけは違うんです。評価、査定、昇進。職場とは、「他人を能力で測ることが制度として正当化されていて、みんなが公然とそれをやっている場所」なんですね。

仕事の仕方、会話の仕方、速さ、正確さ。常に何かを測られて、しかもそれに文句が言えない。職場の人間関係が独特にしんどいのは、これが理由です。ただ人と一緒にいるのではなく、測られながら一緒にいるので。

自分の欠点を見つめるのをやめよう

――そういう場所で、自信を保つのは難しそうです。

なちゅ。:測られることに文句を言えない場所だからこそ、内にこもると危ないんです。測られる恐怖と自分の欠点だけで視界が埋まって、動けなくなるので。

「私は仕事ができない」。そう思って苦しんでいるとき、視点が「自分だけ」に向いているんですね。自分の欠点をルーペで拡大して、隅々まで検分して、また落ち込む。カメラがずっと内向きなんです。

――外に向けると、何が見えますか。

なちゅ。:みんなの「できてない」が見えます。その人なりのごまかし方や、乗り切り方や、助けられ方が見える。誰が何を苦手として、誰にフォローされて回っているのかという、コミュニティの生態系が見えてきます。

この「外を見る目」が、職場での立ち回り全部の土台になります。自分を責める時間を、観察の時間に振り替えていきましょう。

[著者]
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。

[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。