「好きな人が好きなもの」に、どうしても興味を持てない。そんなことはよくあります。しかし、無理に好きになる必要はありません。相手の好きなものを「相手を知るための入口」として見てみる。すると、自分には興味がなかったアイドルや作品が、人間関係を深める共通言語に変わっていきます。本記事では、イラストレーターのヤギワタル氏の書籍『言語化だけじゃ伝わんない 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウを紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「興味ないアイドルのこと」に興味を持てるようになる方法・ベスト1

「興味ないこと」に興味を持つ

 恋人や夫婦、友人との会話で、こんなことはないでしょうか。

「このアイドル、めちゃくちゃ好きなんだよね」

 そう言われても、自分はまったく興味がない。
 曲も知らないし、メンバーも知らない。そもそもアイドル自体に興味がない。

「へえ、そうなんだ」

 これで会話が終わってしまいます。
 もちろん、相手が好きなものを自分まで好きになる必要はありません。

 しかし、そこで完全にシャットアウトしてしまうのは、少しもったいない。
 なぜなら、「好きなもの」には、その人の価値観があらわれるからです。

「好きなもの」を見れば、その人がわかる

 夫婦の関係について、こんなことが書かれています。

私が妻との距離感を維持するために意識してやっていることがあります。
それは、「妻が好きなものを見る」ということです。
「好きなもの」には価値観がよくあらわれます。
好きなもの全部を見なくても、ひとつでもいいので、自分の興味が湧きそうなものを選んで見てみるということです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 ポイントは、「相手が好きだから、自分も好きになろう」としないことです。
 好き嫌いは、そう簡単にコントロールできません。

 興味のないアイドルを「今日から好きになろう」と思っても、難しいでしょう。
 そうではなく、まず見る。

 相手が好きなものの中から、自分にも少し引っかかりそうなものを探してみるのです。
 アイドルそのものに興味がなくても、ファッションなら興味を持てるかもしれない。
 音楽には興味がなくても、ライブの演出は面白いかもしれない。
 俳優として出演している映画なら見られるかもしれない。

 そうやって、自分なりの入口を見つければいいのです。

相手の「好き」に入ってみる

 実際、こんな例があります。

たとえば、妻は元アイドルの岡田准一さんが好きです。
解散してしまいましたが、岡田さんが所属していたグループV6も好きです。
「妻が岡田さんを好きだから」という理由で岡田さんやV6の活動を見ていたのです。
それだけで単純に共通点が増え、話題も増えます。
そして、「どう思う?」を聞くことができ、価値観を把握することができます。
単に共通理解が増えるというメリットだけではありません。
自分の考えを伝えるときにも使えるのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 相手が好きなものを見れば、会話が増えます。
 しかし、それ以上に重要なのが、「なぜ好きなのか」を聞けるようになることです。

「岡田准一が好き」という情報だけでは、その人についてまだほとんどわかりません。
 顔が好きなのか。演技が好きなのか。ストイックな姿勢が好きなのか。昔からV6を見てきた思い入れがあるのか。

 同じ「好き」でも、中身はまったく違います。

 だから、実際に見たあとで、「どこが好きなの?」「この作品、どうだった?」と聞いてみる
 すると、アイドルの話をしているようで、実は相手の価値観について話すことになります。

「努力している人が好きなんだ」
「何かを極めている人に惹かれるんだ」

 そんな相手の「頭の中」が少しずつ見えてくるのです。

「自分との接点」をつくる

 さらに面白いのは、相手の好きなものを見ているうちに、自分なりの興味が生まれることです。

岡田さんのキャリアはとてもユニークで、アイドルをやりながら、俳優の道に進みました。自分の好きな格闘技を活かして、スタントなしでアクションをこなしてしまう。徐々に体はムキムキになっていき、俳優陣の中で誰よりも身のこなしが軽い。
アイドルというより格闘家のようになっていくなぁと思っていたら、『イクサガミ』という時代劇アクションドラマでは主役兼プロデューサーも務めるようになりました。
『情熱大陸』でのインタビューを見ると、キャリアは意識的につくっていったようです。
岡田さんのキャリア形成を言葉であらわすと、「自分の独自性を見つけて、それを伸ばして強みをつくる。今度は強みを横展開して、業種を変えていく」などと表現することができます。
これがもし、妻に対してキャリアの話をしようとしていきなり、「独自性を伸ばすのが大事だよね」と言っても、「ふーん、あっそう」となるだけです。
「岡田くんみたいなキャリアが理想だよね」と言ったほうが伝わります。
そうすることで、相手のネットワークに入り込みやすくなるのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 最初は「妻が好きだから」という理由で見ていた。
 しかし、見ているうちに「キャリア」という、自分が興味を持てる切り口が見つかったわけです。

 興味のないものを、そのまま興味のない角度から見る必要はありません。
 自分の関心とつながるポイントを探せばいいのです

 アイドルに興味がなくても、「この人はどうやって売れたんだろう?」なら興味が湧くかもしれない。
 スポーツに興味がなくても、「なぜこのチームはこんなにファンが多いんだろう?」なら面白いかもしれない。
 アニメに興味がなくても、「なぜこの作品は海外でヒットしたんだろう?」なら知りたくなるかもしれません。

 相手の「好き」と自分の「好き」が、どこかでつながるポイントを探すのです。

共通言語が増えると、難しい話も伝わる

 そして、相手が好きなものを知ることには、もうひとつ大きなメリットがあります。
 自分の考えを、相手に伝えやすくなることです。

「独自性を伸ばして、それを強みにして、横展開していくキャリアがいいよね」

 そう言われても、抽象的です。
 しかし、岡田准一さんのキャリアを2人とも知っているなら、「岡田くんみたいなキャリアが理想だよね」で伝わる。

 たった一言です。2人の間に「岡田准一」という共通理解があるからです

 これはアイドルに限りません。映画でも、漫画でも、スポーツでも、ゲームでも同じです。

「あの映画の主人公みたいな感じ」
「あの選手みたいな考え方」
「あの漫画のシーンと同じだよね」

 2人が同じものを見ているほど、少ない言葉で多くのことを共有できます。
 つまり、相手の好きなものを見ることは、単に話を合わせるためではありません。

 2人だけの「共通言語」を増やす行為なのです
 興味のないアイドルに、無理やり興味を持つ必要はありません。

 まずは、好きな人が「なぜそれを好きなのか」に興味を持つ。
 そして、その人が見ているものを少しだけ見てみる。

 すると、その中に自分なりの「面白い」が見つかるかもしれません。

「相手が好きだから、ちょっと見てみる」。その小さな行動が、相手の世界を知り、自分の世界を広げ、2人の距離まで近づけてくれるのです。

ヤギワタル
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない――絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。