ワイン年間消費量の世界一は、「ボルドー」「ブルゴーニュ」「シャンパーニュ」など銘醸地を抱えるフランスでもなく、生産量1位を誇るイタリアでもない。伝統や格式といったルールをあえて捨て、消費者目線の合理的なアプローチで世界最大のマーケットへ躍り出た「大国」が存在する。一杯のワインから歴史、地理、政治、経済、文化を紐解く新しい教養書『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』からワイン勢力図の入り口を解説する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

【ビジネス教養】ワイン消費量の世界2位は「フランス」。では1位は?Photo: Adobe Stock

ワインには「旧世界」と「新世界」がある

ワインの世界でよく使われる「旧世界(オールドワールド)」と「新世界(ニューワールド)」。

違いを知るには、歴史を遡る必要があります。

ワインの発祥はフランス等の西欧ではなく、今から約8000年前のジョージア周辺とされています。

15世紀以降の大航海時代に、その文化はヨーロッパから南北アメリカや南半球へと伝えられていきました。

当時の西洋地図はヨーロッパが中心(日本は極東の端)に描かれていますが、ワインもまた、ヨーロッパから新天地へとその枝葉を広げたのです。

違いは、ラベルにも現われます。

旧世界(フランスなど)――産地名が主役。長い歴史をかけて「この土地にはこの品種」という「正解」を確立し、現在ではそれを法律で厳守。究極がブルゴーニュのテロワールという考え方で、「その土地らしさ」を重視する

新世界(アメリカなど)――品種名が主役。歴史が浅く伝統や法律の縛りが少ないため、消費者の好みの変化に素早く対応できる柔軟性がある。品種や味わいをラベルに明記し、ワインをより身近なものにするマーケティングが発達

アメリカがワインでも世界一である理由

そして、新世界の筆頭といえば、アメリカ。

ワイン消費量は世界第1位(年間31.9億リットル/2025年OIV:International Organisation of Vine and Wine公表データより)、生産量は第4位(年間20億リットル)を誇るワイン大国です。

「人種のるつぼ」らしく、多様な品種とスタイルが全土で花開いています。

この国のワインをあえて一言で表すなら、まさに多様性。

多様性を尊ぶ精神は、国家の外交にも鮮やかに表れています。

ゲスト国にルーツを持つ移民が米国内で造るワインを選ぶのが、ホワイトハウスの流儀。

例えば日米首脳会談の公式晩餐会では、カリフォルニアで日本人女性が夫婦で立ち上げた〈クロ・ペガス〉〈フリーマン〉などが選ばれてきました。

相手のルーツに敬意を払い、縁のあるボトルを供する――そこにはアメリカらしいダイレクトで温かな歓迎のメッセージが込められています。

法規制が伝統国のように厳しくない分、ワイン造りも自由そのもの。

ラベルから中身がわかりやすい品種表示ワイン(ヴァラエタル・ワイン)は、ワインを身近なものにしてくれているのです。

水上 彩(みずかみ・あや)

ワインジャーナリスト/コラムニスト
1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。お茶の水女子大学理学部卒業後、大手通信企業を経てワイン業界へ。世界最大のワイン教育機関WSETが認定する、国内でも取得者の少ない最難関資格「Level 4 Diploma」を保持。
『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ワインをビジネスや文化の視点から紐解く一方、国内外の産地を精力的に訪問し、ストーリーを丁寧に紡ぐ執筆活動を展開。スーパーで手に入るデイリーワインからハレの日の1本まで等しく愛し、初心者目線の解説に定評がある。また、茶道や着物を日常に取り入れたライフスタイルを実践し、ワインと日本の美意識を交差させた独自の楽しみ方を発信している。趣味はアルゼンチンタンゴ。