レストランで分厚いワインリストを渡され、冷や汗をかいた経験はないだろうか。いつまでも自力で解読しようと唸る人がいる一方で、瞬時に最高の1本を引き出せる人もいる。両者の違いとは? 実は、世界のトップレストランであってもリストは読まなくていい。ソムリエを味方につけ、恥をかかずに予算内で楽しむ賢いオーダー術を伝授する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

【ワイン選び】三流は「値段」で決め、二流は「リスト」を熟読する。では一流は?Photo: Adobe Stock

ベストレストランの頼み方

フーディーにとっての聖地が、バスクの山奥にあります。

「世界のベストレストラン50」常連の〈アサドール・エチェバリ〉は、薪焼き料理の最高峰。

同店で長年スーシェフとして働いた前田哲郎さんが、2023年に独立した〈チスパ〉は、薪焼きの技法に発酵など日本の料理法を取り入れたクリエイティブな世界観で知られます。

いずれもランチ営業のみですが、午後1時に始まり、終わるのは夕方近く。

「スペイン人は、一日の大半を食事と会話に使っているのでは?」と思うほど、ゆったりとした時間が流れます。

これらのレストランで欠かせないのが、ワインです。

〈エチェバリ〉のソムリエ、モハメド・ベナブダラ氏は2025年の「世界のベストレストラン50」世界最優秀ソムリエに選ばれた実力者。

こういう場所で、ワインをどう頼むのが「正解」でしょうか。

ペアリングか、ボトルか。

一番楽ちんなのはペアリングですが、最近は「情報量が多すぎて疲れてしまう」と感じる場面が増えました。

ワインの背景を知るのは大好きですが、あまりに頭のリソースをそこに使いすぎると、窓の外の山の景色や、場の空気を100%楽しみきれない気がするのです。

そんなときはボトルで頼むのが、私のマイルール。

条件は一つ、「ローカルワインを選ぶ」こと。

せっかくなら、その地域らしさを感じたいからです。

リストは「解読」不要

ここで声を大にして伝えたいのは、「ワインリストなんて、スーパーソムリエでもない限り、完璧にはわからない」という点です。

呪文のようなワインリストを前に一人でうんうん唸り続けるよりも、店のリストを知り尽くしたソムリエに好みを伝えるほうが、よほどスマートで確実です。

例えば〈エチェバリ〉では、「スペインの爽やかな白を」と相談したところ、モハメド氏が、「きっと気に入るよ」と、大西洋の恩恵を受けるガリシア地方の白を提案してくれました。

その白ワインは、初めは少し硫黄のような香り(還元的といいます)がしましたが、グラスをぶんぶん回すうち、表情がどんどん変わっていきました。

海風の塩気を帯びたナッツのような芳醇な香り。

口当たりはゆったりと柔らかく、深い海の中にたゆたっているような感覚。

複雑に化けたその白ワインは、名物のパラモス産の海老の甘みに見事に寄り添ってくれました。

ユニコーンを掘り当てる

翌日の〈チスパ〉では、隣の客が「サロン」(超超高級シャンパーニュ)や特級ブルゴーニュを開けている中、私はリストをねっとり眺めていました(なんて嫌な客でしょう)。

じろりと目に留まったのが、内陸の産地リオハの〈ロペス・デ・エレディア〉が造る「ヴィーニャ・トンドニア」の2009年のロゼでした。

リオハといえば赤が主流。

ロゼはただでさえ少数派ですが、トンドニアのロゼは生産量が極めて少なく、レストランへの割り当ても「赤を何本買ったら、ロゼを1本」という厳しい世界です。

エド・シーラン似のソムリエ、ガブリエルさんにオーダーを告げると、「お目が高い」というようにニヤリと笑ってボトルを持ってきてくれました。

飲み頃まで自社セラーで長期熟成させてから出荷するのが〈ロペス・デ・エレディア〉の流儀。

16年もの年数を経たロゼは、マッシュルームのような旨味の塊で、余韻がいつまでも鼻へ抜けていく……。

翌日、アロにあるトンドニアの売店を訪ねると、店員さんはこう言いました。

「ロゼはユニコーン的存在よ。飲めたなんてラッキーね」

高価なワインでなくて良いのです。

その土地ならではのワインを見つけ、現地で飲み干す――これも旅の醍醐味だと思うのです。

(本稿は書籍『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より一部を抜粋・編集したものです)

水上 彩(みずかみ・あや)

ワインジャーナリスト/コラムニスト
1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。お茶の水女子大学理学部卒業後、大手通信企業を経てワイン業界へ。世界最大のワイン教育機関WSETが認定する、国内でも取得者の少ない最難関資格「Level 4 Diploma」を保持。
『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ワインをビジネスや文化の視点から紐解く一方、国内外の産地を精力的に訪問し、ストーリーを丁寧に紡ぐ執筆活動を展開。スーパーで手に入るデイリーワインからハレの日の1本まで等しく愛し、初心者目線の解説に定評がある。また、茶道や着物を日常に取り入れたライフスタイルを実践し、ワインと日本の美意識を交差させた独自の楽しみ方を発信している。趣味はアルゼンチンタンゴ。