「海外製品に関税をかければ、自国の企業が儲かるはずだ」――そんなトランプ大統領の強気なアピールを真に受けているなら、少し注意が必要かもしれない。実は、ヨーロッパのワインに高い関税をかけた結果、輸出国だけでなく、「アメリカ自身」にもダメージがあるという。ワインの教養を伝える書籍『ワインの世界地図』から、複雑な流通ルールが引き起こす「関税のカラクリ」と、ビジネスパーソンなら知っておきたい経済のリアルな裏側を紐解く。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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トランプ・リスクとワイン経済学
ビジネスパーソンにとって、今のアメリカを語るうえでトランプ・リスクは避けて通れません。
2025年、その政策は世界のワイン市場に、コロナ禍や世界金融危機に匹敵するほどの輸入ショックを引き起こしました。発端は、全輸入品に関税をかけるというトランプ氏の方針です。
世界のワイン業界がかつての関税ショックの再来に震え上がる中、最終的に同年夏、最大の標的となったEU産ワインに対する15%の関税を始め、世界のワインに関税の網がかけられ、市場は混乱に陥りました。
ここでちょっと考えてみましょう。
トランプ氏が、例えば「フランスワインに関税をかけてやる!」と息巻くとき、実際にその税を払うのは誰なのか。
実は、アメリカの税関で支払うのは、基本的にはアメリカの輸入業者(インポーター)です。その関税分は、価格として消費者に跳ね返ります。
恐ろしいのが、アメリカ特有の流通ルール「3ティア・システム(3層構造)」が生むマジックです。
アメリカでは禁酒法時代の名残で、お酒は①インポーター→②卸業者→③小売・レストランという3つの業者を通すことが義務付けられています(州によっては消費者への直接販売が許されているなどの例外はありますが、基本はこの形です)。
各業者は販売価格に対して一定の利益(マージン)を確保するため、入り口で関税がかかると、ワインの価格は流通を経るごとに雪だるま式に膨れ上がります。
仮に各階層の利益率を30%とすると、入り口での関税はわずか1.5ドルでも、3つの業者がマージンを上乗せしていき、小売店の棚に並ぶ頃には4.4ドルにまで化けてしまいます。
レストランであれば、仕入れ値の3~4倍というさらに高いマージンが乗るため、メニューに載る頃にはなんと10ドル前後も価格が跳ね上がってしまうのです。
アメリカが直面するワイン危機
関税のかかったワインは高くなり、競争力が落ちてしまいます。苦しむのはその生産国だけでなく、輸入ワインを扱っている業者や、高いお金を払わされる消費者も同じです。
「輸入ワインが高くなれば自国のワインが売れるはずだ」。
狙いは明らかですが、現実は単純ではありません。実際アメリカのワイン産業は、かつてないほど厳しい状況に追い込まれています。
保護主義的な政策は、相手国の報復関税を招きます。
例えば、最大の輸出先であるカナダとの間で起きた関税問題はその典型であり、結果としてアメリカ産ワインの輸出売上は激減の危機に直面しました。
さらに足元を見れば、そもそもの国内需要減(ベビーブーマー世代の引退と、子世代のワイン離れ)、中国製ボトルなど輸入資材やエネルギーの高騰、インフレなど、数多の悪条件が重なっています。
ワインジャーナリスト/コラムニスト
1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。お茶の水女子大学理学部卒業後、大手通信企業を経てワイン業界へ。世界最大のワイン教育機関WSETが認定する、国内でも取得者の少ない最難関資格「Level 4 Diploma」を保持。
『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ワインをビジネスや文化の視点から紐解く一方、国内外の産地を精力的に訪問し、ストーリーを丁寧に紡ぐ執筆活動を展開。スーパーで手に入るデイリーワインからハレの日の1本まで等しく愛し、初心者目線の解説に定評がある。また、茶道や着物を日常に取り入れたライフスタイルを実践し、ワインと日本の美意識を交差させた独自の楽しみ方を発信している。趣味はアルゼンチンタンゴ。








