動画の倍速視聴が当たり前になり、タイパ(タイムパフォーマンス)が重視される現代。少しでも無駄を省き、効率的にスケジュールをこなすことこそが「時間を大切にする」ことだと考えられがちだ。しかし、本当に充実した日々を送っている人は、ただ予定を詰め込むだけではない。あえて無駄に見える時間を持つことの重要性について、新しいワイン教養書『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』の著者である水上彩氏の視点をもとに紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「時間の無駄をあえて作る人」の習慣・ベスト1Photo: Adobe Stock

タイパ至上主義が奪うもの

仕事でもプライベートでも、いかに効率よく時間を使い、成果を出すかが問われる時代。スキマ時間を自己研鑽に充て、無駄な行動を極力排除しようと努めているビジネスパーソンは多いだろう。

そうしたタイパ至上主義の中で、真っ先に「切り捨てるべきもの」として標的にされがちなのが、お酒を飲む時間だ。

ワインについて文章を書く仕事をしている水上彩氏も、著書『ワインの世界地図』の中で、現代におけるお酒の立ち位置について次のように述べている。

いつからアルコールは、これほど「悪」とされるようになってしまったのでしょうか。

SNSでは「お酒をやめたらいいことがあった」という動画がバズり、動画は二倍速視聴が当たり前、映画すらも早送りで消費される、そうしたタイパ・コスパの時代です。

――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』(水上彩 著)より

日々のタスクに追われる現代人にとって、時間を忘れてゆっくりとお酒を楽しむ余裕は、もはや贅沢なものになりつつある。

ワインは「タイパの劣等生」?

生産性や効率の観点から見れば、お酒を飲むことはデメリットだらけに思えるかもしれない。著者自身も、ワインがもたらす「効率の悪さ」を素直に認めている。

その視点で見れば、ワインはかなりの劣等生かもしれません。

ひとたびオフモードでワインを口にすれば、残っていた仕事や運動といった「有意義な予定」はすべて吹き飛び、飲みすぎて翌朝すっきり起きられないのは序の口。記憶を飛ばしてやらかした経験は、私自身、一度や二度ではありません。

「もうワインは控える!(やめるという選択肢はないのですが)」と朝、ぼんやり霧がかった頭を抱え、何度固く心に誓ったことか……。それでも夜の帳が下りれば、またグラスへと手を伸ばしてしまうのです。

――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』(水上彩 著)より

効率を極めようとする真面目な人にとって、せっかくの有意義な予定を吹き飛ばしてしまう時間は、排除すべき無駄なものに映るだろう。

しかし、本当に時間を大切にし、長期的に高いパフォーマンスを発揮し続けている人は、常に100%の力で走り続けているわけではない。彼らは意図的に「無駄な時間」を作ることで、自らをリセットしているのだ。

余白の時間にこそ「アイデアの種」が潜む

スケジュール帳を真っ黒に埋めることが充実ではない。著者は、タイパの名の下に切り捨てられがちな「曖昧な時間」にこそ、生きるための活力が宿っていると指摘する。

タイパ・コスパが排除しようとする「一見、無駄に思える時間」。これを優しく肯定してくれるのが、ワインを飲む時間です。

白黒つかない曖昧なグレーの時間は、真面目な人ほどつい「無駄」と切り詰めてしまいがち。しかし、その余白の時間にこそアイデアの種が潜み、明日への活力の源になると、私は信じています。

書店に並ぶ効率化を説くビジネス書の横で、「休み方」を指南する本が増えているのを見ると、みんな頑張りすぎだし、効率化の反動で少し疲れてきているのではないかとも感じます。

――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』(水上彩 著)より

時間を大切にしている人の意外な習慣。それは、焦燥感を手放し、あえて「余白の時間」を味わうことだ。

効率化の波に追われ、心が少し窮屈になっていると感じたら、今夜は時計を外し、ゆっくりとワイングラスを傾けてみてはいかがだろうか。

一見無駄に思えるそのひとときが、凝り固まった思考をほぐし、新しいアイデアや明日への活力を生み出してくれるはずだ。

水上 彩(みずかみ・あや)

ワインジャーナリスト/コラムニスト
1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。お茶の水女子大学理学部卒業後、大手通信企業を経てワイン業界へ。世界最大のワイン教育機関WSETが認定する、国内でも取得者の少ない最難関資格「Level 4 Diploma」を保持。
『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ワインをビジネスや文化の視点から紐解く一方、国内外の産地を精力的に訪問し、ストーリーを丁寧に紡ぐ執筆活動を展開。スーパーで手に入るデイリーワインからハレの日の1本まで等しく愛し、初心者目線の解説に定評がある。また、茶道や着物を日常に取り入れたライフスタイルを実践し、ワインと日本の美意識を交差させた独自の楽しみ方を発信している。趣味はアルゼンチンタンゴ。