ブルーモ証券CEOの中村仁氏に、過剰な設備投資や複雑な金融スキームの台頭など、「AIバブルの兆候」と言える動き整理してもらいました。
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現在の市場にもバブル期を彷彿とさせる兆候がまったくないわけではない。過剰な設備投資や複雑な金融スキームの台頭など、注意すべき動きも散見され始めている。
市場を支えるAIインフラ投資は収益化するか? ドットコムバブルにおける光ファイバー網投資の蹉跌
現在の株式市場はAIブームに支えられて好調である一方、その裏側では1990年代のドットコムバブル期を想起させる過剰投資への懸念が高まっている。とりわけAI関連のインフラ投資の規模は近年異常な拡大を見せている。米国ハイパースケーラー(アマゾンやグーグルなどのクラウド大手)は2025年にクラウドインフラに対して約4000億ドルもの巨額投資を実行しており、これは1960~1970年代に米国がアポロ計画に投じた総額の現在価値(インフレを考慮して当時の258億ドルを2023年時点の価値で約3200億ドルに換算)を1年で上回る勢いである。
しかし投資に見合う十分な収益化が達成できるのかは不透明である。実際、1990年代後半のドットコムバブル期には、将来の爆発的なインターネット需要を見越して世界中に光ファイバー網が敷設されたものの、普及は予想より遅れ投資回収に想定以上の時間がかかった。多くの通信企業は巨額の負債を抱え、その間に金利負担も増大した結果、収益見通しが立たずに経営破綻に追い込まれている。需要を過大評価した結果、光ファイバー容量の供給過剰を招き価格下落を引き起こしたという指摘もある。
当時の過剰投資の教訓は、「収益カーブが継続的な投資ペースに追いつかなかった」点にあった。現在のAIインフラ投資にも同様のリスクが指摘されており、投資額に見合う収益の実現時期が読めないまま支出だけが先行する状況は極めて危ういといえる。
実際、コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニーの試算によれば、2030年まで毎年5000億ドル規模のAIデータセンター投資が続くとの予測に対し、それを正当化するには年間2兆ドルの新たな収益が必要になるという。ところが、現在のIT予算を総動員してAI導入によるコスト削減効果を楽観的に見積もった場合でさえ、年間8000億ドルもの収益ギャップが生じるとされている。要するに、単なる既存IT予算のコスト削減の延長ではAIインフラ投資が生み出す果実は投下資本に見合わない可能性が高く、社会規模のイノベーションと投資主体による収益化が同時に達成できなければ、現在の巨額投資の持続可能性には大きな疑問符が付く状況なのだ。
膨大なAIインフラ投資が収益化しなければ、減価償却で大型株の利益は潰れ、市場全体が崩壊する
もしこの膨大なAIインフラ投資が十分に収益化しなかった場合、企業業績への打撃は甚大である。最先端の半導体やデータセンター設備への支出は将来の減価償却費という形で利益を圧迫する。投資回収が進まなければ、毎期の減価償却負担によって各社の純利益は目減りし、やがて蓄積した負債の返済負担も重くのしかかるだろう。
ドットコムバブル崩壊時には通信インフラ企業の多くが業績悪化から債務不履行に陥り、相次ぐ倒産で市場全体が崩落した。当時、通信機器大手のシスコシステムズやノーテルネットワークスなどは新興通信会社への融資で売上を伸ばしていたが、バブル崩壊後に融資先が次々と倒産し、貸付金の焦げ付き処理で巨額損失を計上、株価も10年以上低迷する結果となった。
売上の質の低下(自己資金の循環による見かけ上の売上計上)や信用リスク(融資先倒産による損失の可能性)といった問題が一気に顕在化し、バブル期の“成功”が帳消しになったのだ。
現在の米国株式市場は、一部の巨大テック企業の成功に極端に依存する構図になっている。前に示した通り、現在の市場のリターンや企業業績の大部分はAIブームを牽引するごく一部の大型株に支えられている。したがって、これらの企業がAI投資の減速や収益悪化で失速すれば、市場全体が受けるショックは計り知れない。
実際にウォール・ストリート・ジャーナルも、データセンター投資熱が冷めればエヌビディアやマイクロソフトのような企業は「ダブルパンチ(売上の減少と顧客企業への出資価値下落の二重の打撃)」を被り得ると警鐘を鳴らしている。AI需要の頭打ちで半導体やクラウド大手の収益が揃って落ち込めば、時価総額の大きさゆえに指数全体を押し下げ、バブル崩壊的な連鎖が現実味を帯びるだろう。
これはまさに現在のAIブームが1990年代通信インフラ投資の二の舞となるリスクといえるだろう。幸いにして、今日の米国テクノロジー大手は1990年代の新興通信企業と比べはるかに強固なキャッシュフローと財務基盤を持つため、一気に連鎖倒産という事態には至りにくいとの見方もある。それでもなお、足元のAI特需が実需に支えられた「健全な成長」ではなく、過剰な期待と資金循環による見せかけの繁栄であるならば、いずれ市場全体に深刻な調整をもたらす可能性は否定できない。
AIインフラ投資のオフバランス化とエヌビディアの循環取引で、市場にレバレッジがかかっている
AI相場を陰で支えるもう1つの懸念材料が、複雑な金融スキームによる市場の過剰なレバレッジ化である。その典型がエヌビディアを中心とした循環取引の存在だ。2025年9月、エヌビディアは生成AI最大手のOpenAIに対し最大1000億ドル(約15兆円)の巨額投資を発表した。表向きは戦略的パートナーシップ契約だが、内実はGPUの供給契約と出資を組み合わせた巧妙なスキームであり、OpenAIが提供された資金でそのままエヌビディア製の半導体を購入するという資金循環構造になっている。
実際、OpenAIはエヌビディアからの出資金を元手にOracle社との間で3000億ドル規模のデータセンター建設契約を結び、Oracleは受け取った資金で必要なエヌビディア製GPUを数十億ドル分購入するという取引も明らかになっている。
要するにエヌビディアが出した資金がOracle経由で再びエヌビディアに売上として戻ってくる構図であり、専門家はこれを「ベンダーファイナンス(取引先への資金供給)」と呼ぶ。
さらにOpenAIはエヌビディアだけでなく、競合のAMDとも大規模なチップ調達契約を結ぶ一方で、AMDから自社株ワラント(最大1・6億株)を供与され、その株価上昇益を購入資金に充当できるという変則的な資金調達までおこなっている。
AMD自身が将来の株価上昇を担保にOpenAIへ事実上の“融資”をしている形であり、市場参加者からは「そこまでして計算資源(GPU)の確保を急ぐ背景にはAIバブルへの過剰な熱狂があるのではないか」という声も上がっている。
このような循環型の資本取引は、一見すると参加各社が得をする「Win-Win」の関係に思えるが、実態としては実需を伴わない売上計上を可能にしてしまう点で危険である。企業間で資金と取引高だけが膨らみ、本来のエンドユーザー需要に見合わない見せかけの成長を演出できてしまうからだ。
事実、1990年代のドットコムバブル末期にも類似の現象が見られた。通信機器メーカー各社は将来の成長を見越して顧客である新興通信事業者に巨額の融資や与信枠を与え、自社製品を買わせることで売上を急拡大させたものの、ブームが去ると顧客企業が資金繰りに行き詰まり次々と破綻し、貸し倒れによる損失処理に追われた。当時その筆頭例となったルーセント・テクノロジーズ社は、新興通信会社への数十億ドルもの融資で業績を伸ばしていたが、バブル崩壊後に巨額の不良債権処理を強いられた。
今回のエヌビディアとOpenAIを核にした循環取引網は、その規模において当時をはるかに凌ぐとの指摘もある。
さらに注意すべきは、巨額化するAIインフラ投資を巡って企業側がデータセンター資産とその建設に必要な借入金を自社のバランスシートから外す、巧妙なオフバランス化を進めつつある点である。
たとえばメタはプライベートクレジット企業と共同で特別目的事業体(SPV)を設立し、一部のデータセンター投資をそのSPVに付け替える手法をとっている。プライベートクレジット企業が外部投資家を集め、彼らのリスクテイクによってデータセンター建設資金をまかなうことで、企業側は資本効率を高めつつ、外部投資家は高い利回りを得ることができる。一見企業側にとっても投資家にとってもウィン・ウィンの構図だが、こうした会計手法はバブルの兆候だと指摘されている。
ジャーナリストのデレク・トンプソンは「企業が支出を隠そうとし始めたとき、それ自体がすでに支出の健全性が失われているサインである」と述べ、これらオフバランス化の動きを2000年代のサブプライムローン危機になぞらえて警鐘を鳴らしている。実際、表面上は安全に見える金融商品にもAIインフラ投資のリスクが潜み始めている。データセンターを投資対象とするREITや民間クレジット債権が増え、市場の隅々までAI関連マネーのレバレッジが効いた状態になりつつあるのだ。
以上のように、AI革命の裏側では過去のバブル期を彷彿とさせる危うい構図が散見される。AIによってもたらされる恩恵には計り知れないものがある一方で、その実現を急ぐあまりに経済の基盤が脆弱化していないか、冷静な分析と警戒が必要である。現在進行中のAIブームが真に持続可能な成長へと昇華できるのか、それとも歴史が示すように過剰投資の反動に見舞われるのか――今こそ浮かれた楽観論に傾くことなく足元のリスクと向き合う時期に来ているといえよう。
★本記事は書籍『AIバブル後の投資戦略』の一部を抜粋・編集したものです。







