ブルーモ証券CEOの中村仁氏は、「AIバブル最大のリスクは、OpenAIの破綻」と主張します。それはAI革命を終わらせるからではなく、AI相場の前提を一気に書き換えるからだと。
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2023年からの株価上昇トレンドが最終的にバブル相場になった場合、「AIバブル」に対する2026年5月現在での最大のリスクは、市場構造の中心に置かれたOpenAIが、資金調達、収益化、計算資源供給のいずれかでつまずくことだ。ここでいう「破綻」とは、必ずしも法的倒産を意味しない。大幅な企業価値の低下、主要提携先との条件変更、クラウド契約の再交渉、IPO期待の後退、あるいは「OpenAIなら将来必ず利益化できる」という信用の崩壊も含む。
OpenAIは、AI相場の象徴資産である。ChatGPTの普及は、生成AIが一般消費者に受け入れられることを示し、同社の計算資源需要は、クラウド企業、データセンター企業、半導体企業の投資計画を正当化してきた。さらに、OpenAIの評価額は、未上場AI企業全体の評価額の物差しにもなっている。したがってOpenAIのリスクは、一企業のリスクではない。AI資本市場全体の信用リスクである。
問題は、OpenAIが最も資本を必要とする局面で、競争環境が厳しくなっていることだ。消費者向け、つまりB2C市場では、グーグル Geminiのような巨大プラットフォーム型AIとの競争がある。グーグルは検索、Android、YouTube、Gmail、Workspaceといった既存の顧客接点を持ち、それらにAIを自然に組み込める。しかも、その投資は広告事業やクラウド事業が生む巨大なキャッシュフローで支えられる。OpenAIが外部資本や提携先の計算資源に依存しやすいのに対し、グーグルは既存事業の利益を使って長期戦を戦える。この差は、価格競争や無料化競争が続くほど大きくなる。
一方、収益性の高いB2B市場でも、OpenAIは安泰ではない。企業向けAIでは、アンソロピックのように安全性、業務統合、開発者向け利用、法人契約に強みを持つ競合が存在感を高めている。B2Cのチャットボットはユーザー数を増やしやすいが、無料利用や低単価利用も多く、推論コストが重い。対してB2Bは単価が高く、継続利用も見込みやすい。しかし、そこをアンソロピックなどの競合に奪われるなら、OpenAIは「最も有名なAI企業」でありながら、「最も利益化しやすい市場を取り切れない企業」になりかねない。
この構造が危険なのは、OpenAIの投資計画が巨大な計算資源需要を前提としているからである。最先端モデルを開発し、世界中のユーザーに提供するには、膨大なGPU、データセンター、電力、ネットワーク、クラウド契約が必要になる。つまりOpenAIは、成長すればするほど資本を必要とする企業でもある。B2Cではプラットフォーム企業に押され、B2Bでは専門性の高い競合に食われる。その結果、売上成長が期待ほど進まなければ、計算資源への支払い能力そのものが疑われる。
その影響はOpenAI単体にとどまらない。まず打撃を受けるのは、OpenAIの成長を前提に設備投資を進めたクラウド企業やデータセンター関連企業である。将来の利用量を見込んで建設した設備は、需要が下振れすれば稼働率の問題を抱える。次に、GPUやAI半導体、メモリ、ネットワーク機器、電力設備など、AIインフラのサプライチェーン全体に波及する。AI半導体相場は、足元の販売だけではなく、「将来も計算資源需要が指数関数的に伸びる」という期待によって支えられている。OpenAIの信用が揺らげば、その期待も見直される。
もちろん、OpenAIがつまずいてもAI需要そのものが消えるわけではない。グーグル、アマゾン、マイクロソフト、メタ、アンソロピック、各国政府、大企業はAI投資を続けるだろう。むしろAI技術は、特定の企業が失速しても社会に浸透し続ける可能性が高い。しかし株式市場にとって重要なのは、技術が残るかどうかではない。現在の株価が織り込んでいる成長速度と利益率が、本当に実現するかどうかである。
OpenAIの破綻が怖いのは、AI革命を終わらせるからではない。AI相場の前提を一気に書き換えるからである。投資家は、AIモデル企業に対しては「売上は伸びても利益は出るのか」と問い、クラウド企業に対しては「そのデータセンターは誰が使い、何年で回収するのか」と問い、半導体企業に対しては「現在の需要は最終需要なのか、資金調達で膨らんだ一時的需要なのか」と問うようになる。
バブルとは、単に価格が上がりすぎた状態ではない。将来への期待が信用を生み、その信用が資金供給を拡大させ、拡大した資金供給がさらに価格を押し上げる自己増殖的な循環である。そして崩壊とは、その信用の前提が揺らぎ、同じ循環が逆回転することで起きる信用収縮の過程である。
こうしてAIエコシステムの資金循環に対して信用収縮が起こると、そこで動いている資金の巨額さから、日本のバブル崩壊後の不良債権問題、リーマンショック後の住宅ローン市場の崩壊と類似した金融市場全体のシステミックリスクとなるというシナリオが、現在の株式市場が抱える最も大きなリスクだろう。
もしかすると、今後はプライベートクレジットによるデータセンター資金調達手法が拡大してこの信用リスクの火種が生まれるかもしれないが、2026年5月現在の環境ではOpenAIというAI相場の象徴ともいえる企業そのものが、その信用リスクの中心にいると評価できるだろう。
投資家目線で理解しておかなければいけないのは、AIという技術が本物であったとして、さらに現在の相場環境がバブル状態ではなかったとしても、AI革命の行き着く先は株価上昇シナリオだけではないということである。
★本記事は書籍『AIバブル後の投資戦略』の一部を抜粋・編集したものです。







