辞めてほしくない人ほど辞めていく……。2万人をみてきた組織開発コンサルタントで『組織の違和感』の著者である勅使川原真衣氏が、組織のすれ違いを読み解きます。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

組織の違和感Photo: Adobe Stock

小さな無理の積み重なり

 仕事ができる。責任感もある。
 周囲から頼られ、困っている人がいれば自然に手を差し伸べる。

 そんな人が、ある日突然、会社を辞めてしまうことがあります。

 周囲は驚きます。

「評価されていたのに、なぜ」「重要な仕事を任されていたのに」と。

 しかし、本人にとっては突然ではありません。小さな無理が積み重なり、もう続けられないところまで来ていたのです。

何でも同じようにできるわけではない

 優秀な人ほど辞めていく職場では、能力のある人に仕事が集まりすぎていることが往々にしてあります。

「あの人に頼めば早い」「最後はあの人が何とかしてくれる」。
 そうして難しい案件や急ぎの仕事が次々に任される。本人も期待に応えようと頑張るため、表面上は問題なく仕事が回ります。

 けれども、その「問題なく回っている状態」こそが危険です。

 仕事を任せる側は、成果を出している人を見て「この人にはまだ余裕がある」と考えます。しかし本人は、得意だから楽にこなしているとは限りません。

 周囲の期待を裏切らないように、苦手なことまで引き受け、見えないところで無理をしているかもしれないのです。

 完璧な人はいません。どんな人にも得意不得意があり、持ち味がある。

 ある仕事で成果を出しているからといって、その人が何でもできるわけではないのです。

 それなのに思考停止で同じ人に負担をかけ続けていれば、「自分を役立てられるのはここではない」と優秀な人が会社を去るのは当然でしょう。

その人らしい強みを、無理なく発揮できるように

 また、優秀な人に頼ることで成り立っている職場では、周囲が育ちにくくなります。難しい仕事はいつも同じ人に集まり、ほかの人には経験を積む機会が回ってこない。

 その結果、ますます「あの人にしかできない仕事」が増えていきます。

 これは、組織の設計の問題です。

 リーダーに必要なのは、優秀な人を引き留めるために、励ましたり評価を上げたりすることだけではありません。誰に何が集中しているのか、誰の苦手を誰が補っているのか、その負担が一方的になっていないかを観察し、構造的に捉えることです。

 そして、本人が「もう難しい」と言い出す前に、役割や仕事量を組み替えていくことです。

 優秀な人は、たくさんの仕事を抱えられる人ではありません。その人らしい強みを、無理なく発揮できる人です。

 一人の万能さに頼るのではなく、それぞれの得意と不得意を持ち寄り、凸凹を補い合える組織をつくる。その視点がなければ、できる人ほど黙って無理を重ね、やがて職場を去っていきます。

「あの人なら大丈夫」と感じたときこそ、立ち止まってください。
 その安心感の裏で、誰か一人が組織の無理を引き受けていないか、と。