世の中をあっと言わせる偉業を成し遂げた人は、自分の仕事をどう捉えていたのか。サラリーマンでありながらサンダンス映画祭で日本映画史上初のグランプリを受賞し、『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』を上梓した長久允氏の思考から辿ります。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

脚本の教室Photo: Adobe Stock

「正しいやり方」を探すのがうまい人

 仕事ができる人ほど、「正しいやり方」を探すのがうまいものです。

 成果を出している人の方法を学ぶ。過去にうまくいった型を調べる。評価された資料を参考にする。上司やクライアントが納得しやすい言葉を選ぶ。

 そうやって、失敗の確率を下げ、一定以上のクオリティに早く到達できることは、ビジネスパーソンにとって貴重な素質かもしれません。

 けれど、それがうまい人ほど、あるところから苦しくなることがあります。

自分の感覚にふたをしている

 型通りにやっているのに、なぜか自分の企画にならない。資料は整っているのに、どこか弱い。

 会議では説明できるのに、自分でも心から面白いと思えていない。

 そんな現象が起きることがあるかもしれません。むしろ、正しいやり方を探す力があるからこそ、自分の感覚が外に出る前に、誰かの型でふたをしてしまっているのかもしれない。

 長久允さんの『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』には、それに通じることが書かれています。

 他人の心なんて実際わからないのだから、
 偉そうにわかった気になって書くよりも全然いい。
 むしろ他人の心がわからなくて、混乱し奔走するあなたの物語が観たいのです。


――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』p220より

「何にも似ていない」ことが価値になる

 これまで私たちは、正解を当てることで褒められてきました。

 しかし新しいものやおもしろいものが求められるビジネス世界では、必ずしも既存の正解だけが成功の近道ではありません。

 正解に合わせることを優先しすぎると、自分が何をおもしろいと思っているのか、どこに引っかかっているのか、何を本当に届けたいのかが見えにくくなっていきます。

 まさか、他者の目を気にせずに、評価を求めずに作ったこの映画が。まさか、アメリカの一番大きな映画祭で、世界中の1万作品の中から、アジアの日本の小さな街の物語が。グランプリに選ばれるなんて。本当に思ってもみませんでした。審査委員長は舞台上で私に言いました。

「この映画は他の何にも似ていない」

 それが決め手だったそうです。


――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』p38-39より

 長久さんがサンダンスでグランプリを獲った際のことをこう振り返るように、自分を消さずにいることが健全に成功するための方法なのかもしれません。

「正しいやり方」に自分を合わせすぎないこと。

 どれが正しいかではなく、自分の考えがいちばん生きるやり方はどれか。その問いを持てるかどうかで、仕事の質は変わっていきます。

未来は明るい

 長久さんは、映画づくりの未来についても、こう語っています。

 大丈夫。未来は、自由側・個人的側の映画に明るい予感もしています。
 iPhoneの撮影機能が上がったり、誰でも自分で編集ができる時代になったりした今、興行から離れた、より制限のかからない映画づくりが可能になってきているからです。

 たとえば私は、夜職の女性の方が帰宅後のルーティーンを上げているVlogをよく見ます。彼女は過酷な仕事を淡々とこなし、その愚痴を小さな声で呟き、小さな文字でテロップを入れ、冷蔵庫から缶のサワーと納豆を取り出して食事を摂ります。私は、いつもその映像に心が奪われます。
 映像の暗さも、整音されてないサウンドも、そのすべてがリアルで、彼女のその個人的な生活のディテールが、ハリウッド映画では表現することができない緻密な個人的さを定着させることに成功していると言えます。そして、もし彼女が「これを映画として発表します」と言ったら、私はきっとその年のパルムドール作品よりも、この映画を推すでしょう。


――『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』p56より

 道具や環境が変われば、表現の仕方も変わります。誰かが決めた正しい順番や大きな仕組みに従わなくても、自分の感覚を形にできる可能性は広がっています。

 技術の進歩がめざましい中だからこそ、誰かの成功法則をそのままなぞるだけではなく、自分の力がいちばん出る方法を見つけることが大切になっているのではないでしょうか。