世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”出口治明元APU学長。宮部みゆき氏などから絶賛されている出口氏の『哲学と宗教全史』をもとに、哲学と宗教の視点から見る「大乗仏教が説いたこと」とは? ライターの照宮遼子氏がレポートする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

【哲学と宗教】自分だけが救われても幸せになれない。大乗仏教が説いたことPhoto: Adobe Stock

恵まれていることへの「後ろめたさ」

 以前、インドネシアのジャカルタで働いていた頃、私の給料は日本で働いていたときより低かった。
 だが、家賃は会社が負担してくれ、生活費も日本ほどかからない。
 一方、一緒に働いていたインドネシア人のスタッフは、私よりずっと低い給料で働いていた。現地の事情は彼らのほうが詳しく、仕事をするうえで助けてもらうことも多かった。

 もちろん、日本人と現地スタッフでは、もともと待遇に差があることは知っていた。
 それでも、一緒に働くうちに、自分がかなり恵まれた環境にいることを実感したのだった。

現代人に語りかける「大乗仏教」の教えとは?

 立場の違いを前にしたとき、一つの視点を与えてくれるのが、『哲学と宗教全史』(出口治明著)で紹介される「大乗仏教」である。

自分一人が救われたらいい、という考え方は小さな乗り物に一人だけ乗って、幸福になるようなものだ。(中略)
我々は、大勢の人が乗れて幸福になれるような乗り物を目指す。
――『哲学と宗教全史』より

「大乗」とは、文字どおり「大きな乗り物」を意味する。
 自分だけが悟りに至るのではなく、苦しんでいる多くの人を救うことを目指し、そのために慈悲を重んじた。

 自分が幸せに暮らせていれば、それで十分だと思ってしまうことはある。
 けれど、同じ社会には、困っている人や苦しい状況にいる人もいる。
 大乗仏教は、そうした人たちを置き去りにせず、自分だけではなく、多くの人がともに救われる道を目指した。

自分の幸せの「外」にも目を向けると変わる!

 今は、自分の人生をどう豊かにするかが重視される時代だ。
 投資や副業など、自分の将来に備える方法も数多くある。
 その一方で、まわりの人の暮らしにまで目を向けることは、つい後回しになりやすい。

 しかし、私たちは誰ともかかわらずに生きているわけではない。
 大乗仏教の「大きな乗り物」という考え方は、誰とどのように生きていくのかまで含めて、幸せを考える視点を現代の私たちに与えてくれるのかもしれない。