荷物を運ぶ配送スタッフ写真はイメージです Photo:PIXTA

商品も価格も変わっていないのに、配送の選択肢が一つ消えただけで客は離れた。中国のEC大手アリババで起きたトラブルでは、売上数量が約15%減少し、競合サイトへ顧客が流れたこともうかがえた。物流は本当に、単なるコストとして考えてよいのか。偶然のトラブルから見えてきた、配送品質の意外な価値を紹介する。※本稿は、Data Science Center副所長の安井翔太、サイバーエージェントのデータサイエンティストの伊藤寛武、金子雄祐『原因と結果を武器にする思考』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

アリババを襲った42時間の
物流トラブルが「実験」になった

 中国のEC最大手アリババと物流会社のSF Expressのトラブルを準実験の機会として捉え、配送品質が売上に与える影響を調べた事例を紹介します(*)。

 まずアリババのビジネスの仕組みを簡単に確認しておきます。アリババは多数の店舗が出店して商品を販売する巨大なECサイトです。各店舗はあらかじめ配送会社を選定しており、購入者はその店舗が指定した配送会社を通じて商品を受け取ります。

 つまり、どの配送会社が使えるかは、店舗の出荷体制と購入者の購買判断の双方に直結する重要な要素です。

 2017年6月、このアリババと、当時中国で物流品質No.1と評されていたSF Expressとの間で、データ連携をめぐるトラブルが発生しました。その結果、アリババ上で約42時間にわたってSF Expressが利用できなくなりました。

 店舗側はSF Expressを選べず、別の配送会社への切り替えや出荷の遅延を余儀なくされ、購入者側でもSF Expressの配送の選択肢が消えるという影響が出ました。

 このトラブルはアリババにとっても想定外の出来事でした。しかしデータ分析の観点から見ると、非常に貴重な機会です。「物流品質を意図的に落とす実験はリスクが高すぎてできない」にもかかわらず、最高品質の選択肢が突然消えるという状況が全社規模で偶発的に発生したからです。

影響を受けた店舗と
受けなかった店舗が偶然生まれた

 分析するうえで重要なのは、物流に影響があった店舗もあれば、なかった店舗もあった、という点です。

 アリババ上には、SF Expressを利用していた店舗と、アリババのグループ企業の物流ネットワーク(Cainiao)を利用していた店舗が混在していました。SF Express利用店舗はトラブルの直撃を受けましたが、Cainiaoの物流を使っている店舗はこのトラブルの影響をまったく受けず、通常通り営業を続けていました。

 この構造を活かすと、前者を物流の品質を落としたトリートメント群、後者を物流の品質を変えなかったコントロール群として扱うことができます。

* Cui, R., Li, M., & Li, Q.(2020). Value of High-quality Logistics: Evidence from a Clash between SF Express and Alibaba. Management Science, 66(9): 3879-3902.