実際、否定論者からは、気候科学の専門家たちが、自らの影響力を高めたり、研究資金を獲得したりするために、人為的気候変動を捏造し、それを批判する論文を専門誌に掲載させないように共謀しているとの疑惑が示されてきた。「通説」とされる見解は専門家の閉じたサークルで決まり、異論は排除される――そう考えるとき、科学をめぐる陰謀論が出現する。クライメートゲート事件の騒動は、こうした考え方を背景にしている(注7)。
否定論への批判も
陰謀論化していく
ところが、気候変動否定論を批判するジャーナリストや科学史家は、むしろ、否定論の側にこそ組織的な動きがあると指摘してきた。具体的には、石油メジャー(国際石油資本)が、人為的気候変動に疑義を呈する多数の組織に資金提供を行ってきたことが、内部文書から明らかになっている(注8)。
『科学否定論はなぜ人をひきつけるのか』(松村一志、筑摩書房)
もちろん、否定論の発信者の全てが化石燃料企業の関係者というわけではない。否定論の主張に納得して、これを広めたり、正当化したりする人もいるだろう。明日香壽川(編集部注/東北大学名誉教授。環境科学者、経済学者)が指摘するように、その背景には、情報リテラシーの低さや単なる天邪鬼、ないし天邪鬼でいることによる経済的利益といった事情も考えられる(注9)。だが、それだけでなく、議論が一色に染まっていることへの警戒感といった、それ自体は真っ当な問題意識もありうる。
ともあれ、ここで注意したいのは、気候変動否定論だけでなく、それへの批判もまた陰謀論になっていることだ。否定論の普及が、化石燃料企業の組織的な介入によるものだと考えるとき、そこに陰謀を見出している。その存在が資料によって立証されているとしても、議論の形式は陰謀論に他ならない。こうしたことが起きるのは、主流派の陰謀を見出す科学否定論の側が、それと対抗するために自ら組織化し、結果としてその活動が陰謀的になるからである。そういう形で、双方が陰謀論化していく。
一般的に「陰謀論」は、荒唐無稽な議論だと見なされている。しかし、陰謀論にも正しいものと間違ったものがあるのだとすると、陰謀論という議論の形式自体は問題ないということになるのだろうか。その場合、「正しい陰謀論」と「間違った陰謀論」の違いはどこにあるのか。
ただし、その後、スティーブン・モシャーはBBCの取材に際し、誤りを認めて謝罪している(BBC Podcasts, 2021, “The Hack That Changed the World”)。
(注8)Oreskes, Naomi and Erik M. Conway, 2010, Merchants of Doubt: How a Handful of Scientists Obscured the Truth on Issues from Tobacco Smoke to Global Warming, London: Bloomsbury Press.(福岡洋一訳、2011a、『世界を騙し続ける科学者たち(上)』楽工社;福岡洋一訳、2011b、『世界を騙し続ける科学者たち(下)』第6章、219-220、楽工社)など。
(注9)明日香壽川、2021、『グリーン・ニューディール――世界を動かすガバニング・アジェンダ』岩波書店、29頁。







