このように、合意の存在を示したとしても、そのことが合意されているかという次の疑問が出てくる。そうなると、文献の迷宮を前に、素人には何が妥当なのかわからなくなっていく。ここに、否定論をめぐる議論の難しさがある。

気候科学は専門外なのに
通説を否定する人たち

 重要なのは、専門家の合意という考え方が、陰謀論の問題と深く関わっていることだ。

 本稿では、通説の「否定」(=拒否)を、専門の学術雑誌や学術書の外側で展開されるものだとした。気候変動否定論の場合も、テレビ・新聞・書籍、あるいはブログのようなウェブ媒体で発信されることが多い。気候科学の主流ではない学術雑誌や査読のない雑誌で発信されることはあっても、気候科学の主要専門誌に掲載されることは稀である。また、否定論者は、科学者であっても、気候科学の専門家ではないことも多い(注6)。

 とはいえ、人為的気候変動を否定し、それだけ読めば説得的に感じられる記事はたくさんある。だからこそ、専門家の合意の存在自体が怪しく見えてしまう。

(注6)明日香壽川、2021、『グリーン・ニューディール――世界を動かすガバニング・アジェンダ』岩波書店、31頁。
Mann, Michael E., 2012, The Hockey Stick and the Climate Wars: Dispatches from the Front Lines, New York: Columbia University Press.(藤倉良・桂井太郎訳、2014、『地球温暖化論争――標的にされたホッケースティック曲線』化学同人、84-85頁、94頁)
Bradley, Raymond S., 2011, Global Warming and Political Intimidation: How Politicians Cracked Down on Scientists as the Earth Heated Up, Amherst: The University of Massachusetts Press.(藤倉良・桂井太郎訳、2012、『地球温暖化バッシング――懐疑論を焚きつける正体』化学同人、58-60頁)