「私たちは『つなぎ目の社会』を生きている」――そう指摘するのは、人気著者の山口周さんです。20年以上コンサルティングの世界に身を置き、企業に対して使ってきた経営戦略のコンセプトを、意識的に自身の人生にも応用してきた山口さん。その集大成が『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』です。なぜいま、私たち一人ひとりに「人生の経営戦略」が必要なのか。その背景にある時代の大きな変化について聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

「考えが浅い人」が人生の選択で見逃していることとは?Photo: Adobe Stock

制度は「高成長」のまま、現実は「ゼロ成長」

――「頑張っているのに報われない」と感じる人が増えているように思います。なぜでしょうか。

山口周氏(以下、山口):日本のGDP成長率を10年ごとに平均したグラフを見てみましょう。

私たちの社会は、1960年代の高度経済成長の時代から一貫して低下を続けていて、2020年代の平均成長率は事実上ゼロになっています。

――こうして見ると、すごい低下ですね……。

山口:私自身は、この状態を必ずしもネガティブには捉えていません。成長が強迫的に求められる「登山の社会」から、安定した低成長の「高原の社会」へ成熟していくプロセスだと考えているからです。

問題は「低成長そのもの」ではありません。

「無限の成長を前提とした社会の制度や規範」と「ゼロ成長へ軟着陸しつつある現実の社会」とのあいだに歪みが生まれ、その歪みに私たちの人生が翻弄されていることこそが問題なのです。

現実はゼロ成長に近づいているのに、制度や規範は高成長時代のまま。私たちはこの「つなぎ目の社会」を生きています。

社会学者のデュルケームは、こうした移行期には「規範の解体=アノミー」が起き、モラルの荒廃や自己の喪失が起きると指摘しました。いま日本で起きている混乱の多くは、まさにこの歪みが生み出していると私は考えています。

「居場所の選択」で人生に天地の差がつく

山口:つなぎ目の社会を生きるにあたって、とくに問題になるのが居場所の選択です。

――成長の期待値がゼロなら、逆にどこにいても同じ、ということにはなりませんか。

山口:それがそうではないんです。直近10年のGDP平均成長率を産業小分類別に見ると、上はプラス7.83%の「電子部品・デバイス製造業」から、下はマイナス6.18%の「水産業」まで、かなりの幅があります。

つまりゼロ成長社会とは、「成長・発展している場所」と「停滞・衰退している場所」の明暗が極端に分かれる社会のことなんです。

こういう社会では、個人の「居場所についての選択」、経営戦略論の用語で言えば「ポジショニング」が、人生に決定的な影響を及ぼすことになります。

もう「ご縁」には任せられない

――高成長時代のままになっているシステムには、どういうものがありますか?

山口:たとえば「新卒一括採用」がそうです。これは言うなれば「候補者に時間を与えない仕組み」なんです。どのような産業がいいのかを考えるリテラシーもないまま、卒業までに就職する会社を決めなければならないわけですからね。

社会全体が足並みをそろえて成長していた時代なら、このシステムはむしろ合理的でした。「選択に時間をかけて得られるリターン」より「時間をかけることで失うロス」の方が大きかったからです。目の前の選択肢に飛びついて、「ご縁だから」と、そこで頑張るのが正解だったんですね。

しかし、その考え方はもう通用しません。私たちはランダムに居場所を選べば成長の期待値はゼロという社会、つまり「選択に時間をかけるリターン」が「時間をかけることで失うロス」より大きい時代を生きています。自分の居場所について、そして人生について、よくよく考えて生きなければならないのです。