「戦争において、場所は『全て』である」――ナポレオンの言葉を引きながら、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんが強調するのは、「どこにいるか」が人生に及ぼす決定的な影響です。旧約聖書で神が人間に発した最初の問いも「あなたはどこにいるのか?」でした。現状を変えたいとき、多くの人がスキルアップに走ります。しかし、それより先に検討すべき「もうひとつのオプション」があると山口さんは言います。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

人生を変えたいなら「最初に」変えたほうがいいもの・ベスト1Photo: Adobe Stock

神が人間に発した「始原の問い」

――『人生の経営戦略』の中で、「ポジショニング戦略」を個人の人生に当てはめるという内容が興味深かったです。ポジショニング戦略とは、企業の長期的な競争優位は、内部の資源や能力よりも、その企業の立地や環境に大きく左右されるというものでした。私たちは立地、つまり物理的な場所にも影響を受けるものですよね。

山口周氏(以下、山口):多くの人はあまり意識していませんが、立地は私たちの人生に決定的な影響をもたらします。

「どこにいるのか」というのは、聖書を通じて神が人間に発した最初の問いなんですよ。

旧約聖書の創世記で、禁じられていた「知恵の実」を食べたことの発覚を恐れて茂みに隠れているアダムとイブに、神は「どこにいるのか?」と問いかけました。

神は全知全能ですから、二人がどこにいるかを知っています。知っていて、あえて聞いているんです。「なぜ自分はここにいるのか?」を考えさせるためです。この「あなたはどこにいるのか?」「なぜそこにいるのか?」という問いは、人生の経営戦略を考えるうえでも非常に重要です。

立地や環境を変えよ

――現状を変えたいとき、多くの人はまず「スキルを磨こう」と考えますが、場所を変えるというのも良い手であるわけですね。

山口:ポジショニング理論にのっとって言えば、競争優位を発揮できていない組織や個人が本当に考えるべきは、「どうやって資源や能力を獲得するか」という論点以上に、「どのように立地や環境を変えるか」という論点だということになります。

多くの人は、状況を改善しようというとき、とりあえずスキルや知識を身につける、つまり「人的資本を補強する」アプローチをすぐに考えてしまいます。しかし私たちは、全く別のアプローチとして「立地や環境を変える」というオプションを常に持っています。このことを覚えておきたいですね。

居心地のいい場所に潜む罠

――とはいえ、いまの場所が居心地よければ、動く必要を感じない人も多いはずです。

山口:その危うさをユーモラスに描いたのが、井伏鱒二の『山椒魚』です。小さな岩の隙間に住む山椒魚が、成長するうちにその隙間に閉じ込められて、外に出られなくなる話です。

山椒魚は最初、自分の住処が快適で安全であることに満足しています。しかし成長と共にその場所が窮屈になっていく。それでも自分の居場所に固執し、他の選択肢を探すことを怠り、新しい挑戦や変化を避けたために、そこから動けなくなってしまうんです。この話は私たちに教訓を与えてくれますよね。

私たちの「人生の立地」は静的で固定的なものではなく、ダイナミックに変化していきます。たとえ魅力的でおいしいポジショニングを確保したとしても、社会や自分が変化する中で、そのポジションに固執し続けることは危険です。変化をポジティブに受け入れて、自分のポジショニングを常に修正していくことが求められるのです。