「みんな計画を持っていたよ。俺のパンチを顔面に喰らうまではね」――伝説のボクサー、マイク・タイソンの言葉です。『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、この言葉を引きながら、「人生は超長期のゲームであり、想定外は必ず起きる」と語ります。では、綿密な計画は無意味なのか? 成功するプロジェクトの共通点について聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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人生は適応戦略ゲームである
――人生の計画を立てても、計画通りにいくことのほうが少ない気がします。想定外のことばかり起きて……。
山口周氏(以下、山口):当然です。人生は超長期にわたるゲームですから、想定外のことが次々に起きて、進路変更を余儀なくされるのは当たり前なんです。だからこそ、超長期の全体的な方針を持ちながら、発生した想定外の出来事を避けるのではなく、むしろポジティブに取り込んで方針そのものを成熟させていくことが大切です。戦略論の概念として表現すれば、人生は「適応戦略的ゲーム」なんです。
適応戦略とは、企業や組織が、固定された戦略や計画に固執するのではなく、次々に現れる想定外の機会や脅威に柔軟に対応し、資源配分を調整することで目標を達成するという考え方です。
適応戦略の重要性を最初に指摘したのは、マギル大学の経営学者ヘンリー・ミンツバーグでした。彼は、マイケル・ポーターに代表されるポジショニング理論があまりにも固定的・静的で、予測できない変化が起こる今日の企業環境には適用しにくいと批判しました。そして、カウンターとなる適応戦略の重要性を訴えたんです。この問題意識は、個人の人生にもそのまま当てはまります。
計画に時間をかけるほど、プロジェクト(人生)は失敗する
――とはいえ、計画は綿密に立てたほうが良いのですよね?
山口:一般に、詳細で綿密な計画を立てたほうがプロジェクトはスムーズに進行すると考えられていますよね。ところが実証研究の結果は真逆です。スタンフォード大学のキャスリーン・アイゼンハートとベナム・タブリージが、米国、欧州、アジアのコンピューターメーカー36社による72の製品開発プロジェクトを調査したところ、イノベーティブな製品を生み出すことに成功したチームほど、計画段階にかける時間が少なく、実行段階にかける時間が長い傾向が判明しています。
事前の計画に時間を費やせば費やすほど、プロジェクトの進行は遅くなり、競争力も低下します。成功したチームは、仮説に基づいて大まかな計画を一気に作り、進行に従って明らかになる検証結果をもとに、その場その場で新しい計画に乗り換えていきました。言うなれば、プロジェクトの実行過程全体に計画と修正を溶かし込んでいるんです。
「うまくいかない」は「仮説が検証された」ということ
――個人の人生においても、適応戦略が有効だということですね。
山口:そうです。私たちは、自分が何に夢中になり、どんな強みを持っているかを先見的に知ることができません。つまり人生は「膨大な仮説の集合体」としてスタートし、その仮説をひとつひとつ検証し、破棄・修正することでしか前に進めないんです。
私たちは「想定した計画がうまくいかなかった」ことを「失敗」と捉えがちですが、これは結局捉え方次第なんです。「想定した計画がうまくいかなかった」ということは、「想定した仮説の誤りが検証された」ということです。そう考えればポジティブに捉えることができますよね。
むしろ危険なのは、当初の計画にかたくなにこだわるあまり、想定外の事態を受け入れられなくなること。検証が滞れば、戦略はいつまでも脆弱なままです。自分の戦略に固執せず、想定外の機会に対して開かれた、しなやかな姿勢を持つことが大切ですね。





