さらに、日本人と米国人の投球動作の違いについても調査し、
・日本人は米国人よりストライドが大きく、肘の屈曲が大きい
・肘がよく上がっている
ことを究明した。
球速については、
・球速が上がると怪我のリスクは増加するが、パフォーマンスは必ずしもそうではない
球種については、
・子供にカーブを投げさせることと腕の障害は無関係
マウンドの高さについては、
・低くなっても腕への負担(力、トルク)には影響はないが、動作は若干変わる
という結論を出している。
データから解決策を導くアメリカと
「落としどころ」を探す日本
詳細な調査研究を経て、2014年、MLBは「ピッチスマート(投球数制限と必要な休息日に関する勧告)」を導入した。
同書より転載 拡大画像表示
この目安とともに、世代ごとに詳細なアドバイスも行った。以下抜粋すると、
・12歳以下では、運動能力、体力、そして楽しさに焦点を当てる。野球のルール、一般的なテクニック、チームワークを学ぶことに重点を置く。
・13~18歳では選手は安定した速球とチェンジアップを習得した後、変化球を使い始めることができる。
・19~22歳では年間を通して投球回数を記録する。年間の安全な投球回数の上限は投手によって異なるが、オーバーユース障害は短期的および長期的なオーバーユースの結果であることを覚えておくことが重要。
また15~18歳では毎年、競技的な投球から少なくとも4カ月休み、オーバーヘッド投球から少なくとも2~3カ月は連続して休むことも推奨されている。
アメリカで大規模な研究が可能なのは、アメリカの野球を統括するMLBや大学スポーツを統括するNCAA(全米大学体育協会)が大きな予算を持ち、野球界全体のために使うことができるからだ。専属の研究者もいるし、大学など研究機関とも連携し、徹底的な研究を行う体制ができている。
『高野連』(広尾 晃、新潮社)
しかしそれ以上に違うのは「課題解決」への道筋だ。アメリカは科学的な知見に基づいて事実関係を明らかにし、課題解決の具体的な方法を見つけていく。実験や調査もどんどん行い、数値化できるものはすべて提示する中で、ファクトに基づいて解決策を見出していく。また研究者は強いリーダーシップを発揮する。プロとアマの複数の組織が連携し、共通のガイドラインを普及させる仕組みがあるため、問題意識を共有しやすい。
日本の場合、課題が見つかると、野球関係者が集まって意見交換をする。ある程度の調査、研究は行うが、予算に限りがあり、過去の文献、論文などを参照して決めることが多い。議論は「落としどころ」を見つけることが中心になる。有力者の顔を立てることも多いし、議論の参加者が「合意しやすい」結論になることが多い。
「1週間500球」はまさにそういう「妥協の産物」だったと言えよう。







