ベッセント財務長官が米国債市場を動かす理由Photo:Andrew Harnik/gettyimages

 スコット・ベッセント米財務長官は19日、資金投入に見合うだけの成果を得た。最長期国債の買い戻し規模を40億ドルに倍増するとの決定を受け、30年物米国債利回りは0.1ポイント急低下した。これは過去1年間で最大の1日当たりの値動きであり、株式市場のレバレッジ(信用取引)がかかった分野にも火をつけた。

 しかしベッセント氏がやっているのは表面的な調整に過ぎない。長期利回りは、放漫財政、人工知能(AI)をめぐる空前の設備投資ブーム、そして地政学的圧力という有害な組み合わせを背景に上昇傾向をたどってきた。

 17日、30年物米国債利回りは世界金融危機前以来の高水準に達した。ベッセント氏がこれまで利回り抑制に努めてきたにもかかわらずだ。10年物米国債利回りは2023年終盤に付けたパニック的な水準である5%近辺をまだ下回っているものの、これは安心材料にはならない。翌日物金利の影響を取り除くために、5年後から始まる5年間のインフレ調整済み「実質」利回りを見ると、今年は2009年以来の高水準に達している。

 この一件について単純に説明するなら、世界がデータセンター・軍事・リショアリング(生産拠点の国内回帰)のための資本需要という新時代に突入しつつあるということだ。それは資本の供給者に対して見返りが高まる、つまり利回りが上昇することを意味する。

 また、何が利回り上昇の原因「ではないか」を理解することも重要だ。

 投資家がインフレを懸念して長期国債を売り込んでいるわけではない。確かに数カ月前と比べれば懸念はやや強まっているが、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)と呼ばれる債券市場のインフレ期待は特段高くなく、FRB(連邦準備制度理事会)の目標である2%に近い水準にとどまっている。投資家は、5年連続でインフレが目標を上回ってきたにもかかわらず、中央銀行が長期的にはインフレを目標水準に維持すると考えている。

 ケビン・ウォーシュFRB議長による コミュニケーション戦略の変更 は多くの投資家を混乱させているが、それが利回り上昇の背景にあるとは明確には言えない。理論上は、FRBの方向性についての明確さが低下すれば債券のボラティリティー(変動性) が上昇し、投資家がリスク上昇への見返りを求めることで利回りも上がるはずだ。しかし、債券市場版のVIX指数(恐怖指数)は、米国とイスラエルが最初にイランを爆撃した際に一時急上昇した後、1年前よりやや低い水準にある。少なくとも今のところ、これが問題ではなさそうだ。

 そうではなく、利回りが上昇しているのはより多くの資本が必要とされているからだ。債券発行増加につながる三つのあしき傾向の組み合わせがあるが、そのうちベッセント氏が制御できるのは一つだけだ。