「視野を広げたい」と思っても、自分の興味だけを追いかけていたら、見るものはいつも似てしまいます。そこでオススメしたいのが、「他人の目を借りる」こと。自分が尊敬する人の「目線の先」を追いかけると、知らなかった世界への入口が見つかります。本記事では、書籍『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「視野を広げる」ための方法・ベスト1

「視野を広げよう」としても、なかなか広がらない

「もっと視野を広げたほうがいい」

 仕事でも、日常生活でも、よく言われる言葉です。

 では、実際に視野を広げるには何をすればいいのでしょうか。

 本を読む。旅行をする。いろいろな人に会う。知らないジャンルの映画を観る。
 どれも間違いではありません。

 ただ、ひとつ問題があります。
 自分で選んでいるかぎり、結局は自分が興味を持てる範囲から出にくいのです。

「自由に選んでください」と言われると、私たちは自分の頭の中にすでにあるネットワークを使って選びます。
 知らないものは、そもそも「見てみよう」という選択肢にすら入りません。

 視野を広げることが難しいのは、このためです。

自分ではなく「他人の目」を借りてみる

 そこで使えるのが、他人の目線です。

 この連載で、「師を見るな、師が見ているものを見よ」という言葉を紹介しました。
 こう言うと、「いや、自分には師匠なんていないよ」と思う人もいるでしょう。

 でも、別に本当の師匠である必要はありません。

「師が見ているものを見よ」なんて言われても、師匠なんていない。
いまは師弟制度もありませんし、そう思う人は多いでしょう。
でも、本当の師匠と弟子の関係じゃなくていいんです。
自分で勝手に、尊敬している人、注目している人でいいのです。
たとえば、みなさんが憧れている人。
ふだん見ているSNSで、いつもいいねをつけちゃう人。推している人。
そんな人がもしいるなら、「その人が何を見ているか」をちょっと意識してみてほしいのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 大事なのは、「その人を見る」から、もう一歩先へ進むことです。

「この人は、何を見てこんなことを考えたんだろう?」と、目線の先を追いかけてみるのです

 気になるものをひとつだけ、自分でも見てみる。
 これだけで、自分一人では選ばなかったものに出会えるようになります。

「その人が見ているもの」を見る

 ここで少し重要なのは、相手が明確に「オススメ」したものだけを見る必要はないということです。

 むしろ、何気なく口にしたものに注目してみる。
 何気ない固有名詞を拾ってみるのです

 なぜなら、そこにはその人の頭の中のネットワークが表れているからです。

「なぜ、この人はこのことを知っているんだろう?」
「なぜ、いまこの話とあの話がつながったんだろう?」

 そう考えて、その人が見ているものを自分でも見てみる。
 すると、その人の発言だけを追いかけていたときとは、違った景色が見えてきます。

「八甲田山」という言葉を拾ってみる

 私自身、こうやって他人の目を借りることがあります。

私が注目している人に、株式会社ゲンロンの創業者で哲学者の東浩紀がいます。
彼自身、「実際にものを見ること」を重視していると思うからです。
「経験を通じてラベルと中身の関係を見直す」を、まさに実践しているのです。
彼の書いた『平和と愚かさ』を読むと、それがよくわかります。中国のハルビン、ウクライナのチェルノブイリ、旧ユーゴスラビアのセルビアやボスニア・ヘルツェゴヴィナなど、本を書くにあたって、戦争や原発事故が起きた地域を実際に訪れています。
「平和」という言葉で同じようにあらわせる状態でも、現地に行くとその中身がちがうことに気づく。
ラベルと中身の微妙なズレに敏感な哲学者が、東浩紀なのです。
あるとき、彼のインターネット配信の雑談中にふと、「八甲田山」という言葉が出てきました。明治時代に八甲田山で遭難事件が起きたことや、その事件が小説や映画になっていることが語られていました。
ただそこで私は「東浩紀が言っていたから」という理由で「八甲田山」に興味を持ち、その事件が書かれた『八甲田山 死の彷徨』を読んでみることにしたのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 ここで重要なのは、「八甲田山に興味を持とう」と自分で決めたわけではないことです。
 それまで自分の関心の外側にあったものが、他人を経由することで、自分の視界に入ってきたのです。

 もし、自分の興味だけを頼りに本を探していたら、『八甲田山 死の彷徨』を手に取らなかったかもしれません。

 しかし、注目している人が見ていた。だから、自分も見てみる
 これは、自分の興味を広げるうえで、とても簡単な方法です。

視野の広い人は「入口」をたくさん持っている

 私たちは、「視野が広い人」というと、何でも知っている人を想像しがちです。

 しかし、最初からあらゆるものに興味を持てる人はほとんどいません。
 むしろ、重要なのは知らない世界へ入っていく「入口」をたくさん持つことです。

「あの人が見ていたから、自分も見てみよう」

 この入口を持っていると、自分の興味とはまったく違う方向へ進めます。

 文学が好きな人を追いかけていたら、歴史に出会うかもしれない。
 経営者を追いかけていたら、哲学に出会うかもしれない。
 好きなミュージシャンが話していた映画を観たら、そこから外国の文化に興味を持つかもしれない。

 ひとつの「見る」が、次の「見る」につながっていきます
 そのたびに、頭の中のネットワークに新しい点が加わっていくのです。

「存在すら知らなかったこと」に出会う

 視野を広げるうえで、本当に難しいのは、「知らないことを知る」ことではありません。
 自分が存在すら知らなかったものに出会うことです。

「八甲田山について知りたい」と思えば、調べられます。生成AIに聞くこともできます。

 でも、「八甲田山について知りたい」と思うためには、その前に「八甲田山」という存在が自分の視界に入らなければいけません

 自分の頭の中だけで考えていると、すでに知っている言葉からしか検索できません。
 だからこそ、他人の目線が役に立ちます。

 自分とは違う人生を生きてきた人は、自分とは違うものを見ています。
 その人の目線を追えば、自分一人では見つけられなかったものが視界に入ってくる。
 そこに、他人から学ぶ大きな意味があります。

誰かを理解しようとして、その人が見ていたものを見る。
すると、それまでの自分の視野からは見えなかった景色が見えるようになります。
自分の頭の中のネットワークが少しだけ豊かになっていく。
それは、大袈裟に言うなら「世界に対する理解」が深まったということです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

「視野を広げよう」と気合いを入れても、何を見ればいいのかわかりません。

 だったら、他人の目を借りればいい

 尊敬している人でもいい。好きな人でもいい。SNSでなぜかいつも「いいね」を押してしまう人でもいい。
 その人自身を見るだけでなく、その人が見ているものを見てみる。

 そうすると、自分の目だけでは見えなかったものが、少しずつ見えるようになります。
 視野を広げるとは、何でも知ろうとすることではありません。
 自分とは違う目線を、ひとつずつ借りていくことなのです

ヤギワタル
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。