「発想力がある人」は、ゼロから突飛なアイデアを生み出しているわけではありません。目の前で見たものと、頭の中にある別の何かを意外な形でつなげています。そのお手本は、意外にも百人一首にありました。「人間にしかできない面白い発想」は、どうすれば磨けるのでしょうか。本記事では、書籍『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

面白い発想は「見たもの」から生まれる
アイデアを出そうとして、机の前でウンウンとうなった経験はないでしょうか。
「何か面白いことを考えよう」
「新しい企画を思いつこう」
そう考えれば考えるほど、何も浮かんでこない。
その理由のひとつは、頭の中だけで考えようとしているからかもしれません。
人間の思考は、外の世界から切り離されているわけではありません。
何かを見る。音を聞く。匂いを嗅ぐ。何かに触れる。
そうした刺激によって、頭の中にある別の何かが呼び起こされます。
それは、見たものが人の考えに影響を与えるからです。
正確に言うと、五感に取り込んだ刺激が人の考えを促すのです。
これを教えてくれたのが、百人一首にあるひとつの和歌です。
瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の
われても末に あはむとぞ思ふ
この和歌は、上の句と下の句でまったく別のことが触れられています。
上の句は「流れの早い川を見ていたら、川の流れが岩で2つにわれた」という意味で、ただ単に見えているものを説明しています。
そのあと下の句では、恋人との話に飛躍しています。
さっきは「川の流れ」の話をしていました。
だから、川の流れが岩で「われた」のだと。
そう思いきや、実はこの「われた」は恋人との「別れ」のこともさしています。
そして、われた川の流れが元に戻るように、別れた恋人ともまた会えるのだ、と自分と恋人を重ね合わせている。
川と恋愛。まったく別のことを「われた」という現象でつなぎあわせているのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
川と恋愛。普通に考えれば、何の関係もありません。
しかし、「分かれる。そして再びひとつになる」という共通点を見つけると、突然2つがつながります。
ここに、発想の面白さがあります。
「Aを見て、なぜかBを思い出す」
発想というと、何もないところから何かを生み出す行為のように感じます。
でも、実際にはそうではありません。
すでに頭の中にあるものと、目の前にあるものをつなげる。
つまり、発想とは「ネットワークに新しい線を引くこと」だと考えられます。
川を見て、川について考える。これは普通です。
恋人を思って、恋人について考える。これも普通です。
ところが、川を見て、恋人を思う。ここにはジャンプがあります。
その現実の情景を言葉で描写していたら、別れた恋人を思い出してしまった。
「見た景色」と「思ったこと」という、2つの間でジャンプが起きています。
川と恋人を、「われた」という点でつなぎあわせたのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
この「ジャンプ」こそが重要です。
目の前にあるAから、そのままAについて考えるのではない。
Aをきっかけにして、頭の中にあるBへ飛ぶ。
しかも、AとBのあいだに、本人なりの共通点がある。
「全然関係ないように見えるけれど、ここは似ている」
そのつながりを見つけられたとき、面白い発想が生まれるのです。
発想力を磨くなら「外を見る」
だとすれば、発想力を磨くためにできることも見えてきます。
頭の中だけでアイデアをひねり出そうとしないことです。
外を見る。街を歩く。人を見る。映画を見る。美術館に行く。普段行かない場所へ行く。いつもと違う道を歩く。そこで、「これ、何かに似ているな」「これを見て、なぜ自分はあのことを思い出したんだろう」と考えてみる。
発想の材料になるのは、目の前の世界です。
見たものが増えれば増えるほど、頭の中にあるものと結びつく可能性も増えていきます。
発想力を高めるとは、頭の中に閉じこもって考える力を鍛えることではなく、むしろ外の世界と頭の中を行き来する力を鍛えることなのです。
「別れた恋人に会いたい」だけでは面白くない
もし崇徳院が「思ったこと」だけを詠んでいたら「別れた恋人とまた会いたい」だけになります。「別れた恋人とまた会いたい」と言われても「うん……」としか言えません。
でも、そう思ったきっかけと2つをつなげることで、「川が岩でわれることあるよね。え、それで恋人を思い出してしまうくらい、恋人とまた会いたいと思っているんだ」と、会いたさがより伝わってくるのです。
ふつう、川が岩でわれているのを見ても、「われてるなー」としか思わないからです。
思いついたことを伝えるときは、「その前に見たものとセットにする」。
それがいかに飛躍していることでも、セットにしたほうが、よりよく伝わることがあるのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
ここには、「発想」だけでなく「伝え方」のヒントもあります。
自分が思ったことだけを話すと、ありきたりになりやすい。
「寂しかった」「うれしかった」「頑張ろうと思った」「仕事って大変だなと思った」。もちろん、それ自体は悪くありません。ただ、それだけでは、その人にしかない面白さは伝わりにくい。
そこで、「何を見て、そう思ったのか」をセットにするのです。
「駅でランドセルを背負った子どもを見て、昔の自分を思い出した」
「閉店する店のシャッターを見て、自分の仕事について考えた」
「公園でずっと同じところを掘っている犬を見て、自分の働き方みたいだと思った」
このように「見たもの」と「思ったこと」をセットにすると、その人独自の発想になります。
「なんで、それを見てそう思ったの?」に個性が出る
面白い人とは、必ずしも面白いことをたくさん知っている人ではありません。
同じものを見ても、人とは少し違うところへジャンプする人です。
100人で同じ川を見ても、全員が別れた恋人を思い出すわけではありません。
ある人は「水力発電」を思い出すかもしれない。
ある人は「会社の組織」を思い出すかもしれない。
ある人は「人生の選択」を思い出すかもしれない。
目の前の景色は同じでも、そこからどこへ飛ぶかは人によって違います。
なぜなら、頭の中にあるネットワークが、一人ひとり違うからです。
だからこそ、そのジャンプには個性が出ます。
「何を思ったか」だけではなく、「何を見て、それを思ったのか」。そこまで振り返ってみる。
すると、自分でも気づいていなかった、自分なりのものの見方が見えてきます。
「見たもの+思ったこと」をセットにする
発想力を磨くというと、大げさなトレーニングが必要なように感じます。
しかし、やることはもっと簡単です。
何かを見て、別の何かを思い出したとき、そのジャンプを無視しない。
「なんで私は、これを見てあれを思い出したんだろう?」と考えてみる。
そして、2つのあいだにある「似ているポイント」を探す。
川の流れと恋人との別れ。スマホと沼。知らない街と西新宿。
一見すると無関係な2つのもののあいだに、一本の線を引く。
その線こそが、その人の発想です。
だから、面白いことを思いつきたいときほど、頭の中だけを見ないほうがいい。
まず、目の前にあるものをよく見る。
そして、自分の頭がどこへ飛んだのかを観察する。
「見たもの」と「思ったこと」をセットで捉える。
その小さな習慣が、「なんでそこにつながるの?」と思われるような、人間らしい発想の面白さを磨いてくれるのです。
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。




