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なぜ美術品オークション会社は、売る人と買う人の両方から手数料を取るのか?Photo: Adobe Stock

一つの作品を仲介するだけなのに、
双方が料金を払う理由

 美術品のオークションでは、作品を出品した人だけでなく、落札した人にも手数料がかかることがあります。

 例えば、作品が100万円で落札されたとしても、出品者が100万円をそのまま受け取れるとは限りません。落札価格から販売委託手数料などが差し引かれます。

 一方、落札者が支払う金額も100万円だけではありません。落札価格に落札手数料などが加算されます。
「オークション会社は一つの取引を仲介しただけなのに、なぜ売る人と買う人の両方から手数料を取るのだろう?」

 そう疑問に思う人もいるでしょう。

 実は、オークション会社は、売り手と買い手に同じサービスを提供しているわけではありません。売り手には、作品を査定し、購入希望者を集め、より良い条件で売却する機会を提供します。

 買い手には、通常は出会えない作品を探し、実物を確認し、決められたルールのもとで入札・購入できる場を提供します。

 つまり、オークション会社は一つの作品を仲介しているだけではなく、売り手と買い手、それぞれに異なる価値を提供しています。

 双方から手数料を受け取るのは、一つのサービスを二重に請求しているからではありません。二つの異なる顧客に、それぞれ別のサービスを販売しているからなのです。

売り手は「作品を預ける」のではなく、
「買い手を集めてもらう」

 美術品を持っていても、所有者自身が適切な購入希望者を探すのは簡単ではありません。作品の価値をどのように判断すればよいのか、いくらで売り出せばよいのか、どこで紹介すれば買いたい人に届くのか分からないからです。

 特に高額な美術品では、一般的なフリーマーケットや個人間売買のように、写真と価格を掲載するだけでは十分とはいえません。

 オークション会社は、作品に関する情報を確認し、市場価格を踏まえた落札予想価格や最低売却価格などを出品者に提案します。

 出品が決まれば、作品を撮影してカタログやインターネットに掲載し、既存の顧客へ知らせ、下見会などを開きます。

 つまり、売り手が支払う手数料は、単なる受付料ではありません。

 ・作品を市場に出すための準備
 ・価格を検討するための情報提供
 ・購入する可能性のある顧客への告知
 ・競りを通じて価格を形成する場の提供
 ・落札後の精算手続き

 といった、売却のための一連の業務に対する料金です。

 出品者は、自分だけでは出会えない複数の購入希望者を、一つの場所に集めてもらいます。買いたい人が複数集まれば、競りによって価格が上がる可能性もあります。

 売り手は、作品を預かってもらうためではなく、「より良い買い手と出会える市場」を利用するために手数料を払っているのです。

買い手は「落札する権利」だけでなく、
選べる市場を買っている

 一方、買い手が利用しているのは、単なる入札システムではありません。オークションには、個人では探しにくい作品や、市場に出る機会の少ない作品が集まります。

 買い手は、開催前にカタログやウェブサイトで出品作品を確認し、下見会で実物や状態を確認したうえで、会場、書面、電話、オンラインなどから入札できる場合があります。

 もしオークション会社がなければ、買い手は作品の所有者を一人ずつ探し、売却の意思を確かめ、価格を交渉し、代金や引き渡しについて個別に取り決めなければなりません。

 オークション会社は、作品を一定の形式で整理し、開催日を決め、入札方法や支払期限などのルールを設け、取引を進行します。

 買い手が支払う落札手数料は、

 ・多くの作品をまとめて比較できる機会
 ・事前に作品情報を確認できるカタログやウェブサイト
 ・実物を確認できる下見会
 ・複数の方法で入札できる仕組み
 ・落札後の請求、入金確認、引き渡しの手続き

 などに対する料金と考えられます。

 買い手は、作品そのものだけでなく、「探しにくい作品を、決められた仕組みの中で購入できる市場」にもお金を払っているのです。

売り手が増えると買い手が集まり、
買い手が増えると作品が集まる

 美術品オークションの価値は、出品される作品だけで決まるわけではありません。どれほど良い作品が出品されても、買いたい人が一人しかいなければ、競りは活発になりません。

 反対に、買いたい人が大勢集まっても、魅力的な作品がなければ、オークションへ参加する理由がありません。

 出品作品が増える
 ↓
 珍しい作品や魅力的な作品が集まる
 ↓
 買い手が増える
 ↓
 競りが活発になる
 ↓
 より良い価格で売れる可能性が高まる
 ↓
 さらに出品者が集まる

 という循環が必要です。

 このように、売り手と買い手という二つの利用者を結びつける市場は、「二面市場」と呼ばれます。

 オークション会社は、どちらか一方だけに価値を提供しているのではありません。売り手を集めることで買い手に「選べる価値」を提供し、買い手を集めることで売り手に「競ってもらえる価値」を提供しています。

 双方の参加者が増えるほど市場そのものの価値が高まるため、両方がサービスの受益者になります。
だからこそ、売り手と買い手の双方に、それぞれの利用価値に応じた料金を設定できるのです。

成約したときに手数料を取るから、
利害が一致する

 オークション会社の主要な手数料は、落札価格に対する一定割合として設定されることがあります。これは、オークション会社にとって重要な仕組みです。出品時に固定料金だけを受け取る場合、作品が高く売れても安く売れても、会社の収入は変わりません。

 しかし、落札価格に応じて手数料が決まる場合は、より良い価格で落札されるほど、出品者の受取額だけでなく、オークション会社の収入も増えます。

 また、買い手側の手数料も落札価格に連動する場合、取引金額が大きくなるほど収入が増えます。そのため、オークション会社には、

魅力的な作品を集めたい
多くの買い手へ知らせたい
競りを活発にしたい
取引を成立させたい

 という動機が生まれます。

 売り手、買い手、オークション会社の三者が、取引の成立によって利益を得られる構造になります。双方から取る手数料は、単なる収益の上乗せではありません。価値のある取引を成立させるほど会社の収益も増える「成功報酬型」の料金設計でもあるのです。

両側に分けることで、
一方の負担が大きくなりすぎない

 仮にオークション運営に必要な収益を、すべて出品者だけから取るとどうなるでしょうか。販売委託手数料が高くなりすぎれば、

「それほど差し引かれるなら、出品するのをやめよう」と考える所有者が増えるかもしれません。

 反対に、すべて買い手だけから取れば、落札価格への上乗せが大きくなり、「手数料を含めると予算を超えてしまう」と入札を控える人が増える可能性があります。

 売り手と買い手の双方に分けて料金を設定することで、一方だけに大きな負担を集中させず、市場への参加を保ちやすくなります。

 もちろん、手数料率や掲載料、鑑定などにかかる費用は、オークション会社や作品によって異なります。

 大切なのは、双方から料金を取ること自体ではなく、売り手と買い手のそれぞれに、支払う理由が分かる価値を用意することです。

他のお店でも使える
「両方の利用者から料金を得る」設計

 ・人材紹介サービス
 採用企業から紹介手数料を受け取り、求職者には有料のキャリア相談や書類添削、研修などを提供する。企業には人材と出会える価値を、求職者には採用されやすくなる支援を提供する。

 ・イベント運営会社
 出展企業から出展料を受け取り、来場者には有料の特別席、限定セミナー、優先入場などを販売する。出展者には見込み客と出会える場を、来場者には効率よく情報や体験を得られる場を提供する。

 ・ハンドメイドマーケット
 作家から販売手数料を受け取り、購入者には有料会員、配送保証、ギフト包装などのサービスを提供する。作家には販売場所と集客を、購入者には探しやすさと購入時の利便性を提供する。

まとめ

 美術品オークション会社が、売る人と買う人の両方から手数料を取るのは、一つの仲介作業を二重に請求しているからではありません。

 ・売り手には、作品の情報整理、価格の検討、告知、買い手の募集、競売、精算など、作品を市場で売却するためのサービスを提供し
 ・買い手には、多数の作品を比較し、下見を行い、決められたルールの中で入札・購入できる市場を提供し
 ・作品が集まるほど買い手が増え、買い手が増えるほど出品者が集まる「二面市場」を運営し
 ・落札価格に連動した手数料によって、より良い条件で取引を成立させる動機をオークション会社にも持たせ
 ・必要な運営費を売り手か買い手の一方だけに集中させず、それぞれが受け取る価値に応じて分担してもらう

 という、二つの顧客に異なる価値を提供し、一つの取引から複数の収益を生み出すビジネスモデルなのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。