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なぜ居酒屋は、飲み残したボトルを店に置いておけるのか?Photo: Adobe Stock

「残っているお酒」が、
次も同じ店を選ぶ理由になる

 居酒屋やスナック、バーなどで焼酎やウイスキーをボトルで注文すると、飲み切れなかった分を店に置いておけることがあります。

 ボトルには名前や日付を書いた札が付けられ、次回来店したときに、その続きから飲むことができます。お客様にとっては、せっかく購入したボトルを無理に飲み切る必要がなく、次回も残りを楽しめる便利なサービスです。

 しかし、店側から見れば、飲み残したお酒を何カ月も保管するには、ボトルを置く場所や管理の手間がかかります。

「そこまでして、なぜ無料で預かってくれるのだろう?」

 そう思ったことはないでしょうか。

 実は、店に残されたボトルは、単なる飲み残しではありません。お客様がすでにお金を払って購入した「まだ使っていない価値」です。その価値を店内に残してもらうことで、「まだボトルが残っているから、次もあの店に行こう」という再来店の理由が生まれます。

 つまり、ボトルキープは、お客様に飲み残しを無駄にさせないサービスであると同時に、店内に「次回来店のきっかけ」を保管しておく販促の仕掛けなのです。

グラスではなくボトルで注文すると、
最初の客単価が上がる

 ボトルキープの最初の効果は、一回の注文金額を大きくできることです。グラスで一杯ずつ注文する場合、お客様はその都度、

「もう一杯飲もうか」
「そろそろ帰ろうか」

 と考えます。

 一杯ごとに注文をやめる機会があるため、予定より早く飲酒を切り上げることもあります。

 一方、ボトルで注文する場合は、その日に飲む量ではなく、一本分をまとめて購入します。「飲み切れなければ置いておけますよ」と案内されることで、「残っても無駄にならないなら、ボトルで頼んでもよい」と考えやすくなります。

 つまり、ボトルキープがあることで、お客様は「今日飲み切れない量を買うこと」への抵抗が小さくなります。店側は、お客様に無理に飲ませることなく、グラス数杯分の注文を、ボトル一本分の注文へ変えることができるのです。

店に残した「自分のもの」が、
心理的な居場所を作る

 ボトルキープのもう一つの特徴は、お客様が購入したものを店内に残すことです。ボトルに自分の名前が書かれ、専用の棚に並べられると、その店の中に「自分のもの」が存在する状態になります。

 すると、その店は単にお酒を飲む場所ではなく、「自分のボトルが置いてある店」「行けば、いつものお酒を出してもらえる店」へと変わります。

 人は、自分が所有しているものに対して、実際以上の価値や愛着を感じやすい傾向があります。これは「保有効果」と呼ばれます。

 さらに、自分の名前が書かれたボトルを店員が覚えていて、来店するとすぐに出してもらえれば、「自分はこの店の常連だ」という特別感も生まれます。

 ボトルを店に置くことが、商品を預ける行為だけではなく、その店に自分の居場所を作る行為になるのです。そのため、近くに別の居酒屋があっても、「今日はボトルのある店に行こう」と考えやすくなります。

 ボトルキープは、物理的なボトルだけでなく、お客様の帰属意識まで店内に残しているのです。

「残っているのにもったいない」が再来店を促す

 ボトルキープには、店舗によって保管期限が設けられていることがあります。期限は店によって異なりますが、数カ月程度としているケースがあります。期限がなければ、お客様は、「またいつか行けばいい」と考え、来店を先延ばしにするかもしれません。

 しかし、一定の期限があると、

「まだ半分残っている」
「期限が切れる前に飲みに行こう」
「せっかく買ったのに、処分されたらもったいない」

 という気持ちが生まれます。

 人は、すでに持っているものを失うことに強い抵抗を感じます。ボトルの残量が多いほど、「使わなければ損をする」という損失回避の心理が働き、次回来店への動機が強くなります。

 このとき、お客様は店から、「もう一度来てください」と頼まれているわけではありません。自分のボトルを無駄にしないために、自分から再来店を決めます。残ったお酒そのものが、値引券や広告の代わりになっているのです。

ボトルが残っていても、
次回来店の会計はゼロにならない

 お客様が再来店してキープしてあるボトルを飲む場合、新しいボトルを買う必要はありません。それなら、店側にはあまり売上が生まれないように見えるかもしれません。

 しかし、ボトルが残っていても、お客様はお酒だけを飲んで帰るわけではありません。料理やおつまみを注文し、水、氷、炭酸などの割りものを頼むことがあります。店舗によっては、席料、チャージ、セット料金なども発生します。

 さらに、一人ではなく友人や同僚を連れて来店すれば、人数分の料理や追加ドリンクの注文も期待できます。そしてボトルを飲み切ると、

「次も同じ銘柄を入れておこう」

 と、新しいボトルが注文されることがあります。その結果、

 最初にボトルを一本購入する
 ↓
 残ったボトルを理由に再来店する
 ↓
 料理や割りものを注文する
 ↓
 ボトルを飲み切る
 ↓
 新しいボトルをキープす

 という循環が生まれます。

 ボトルキープは、一回の客単価を上げるだけでなく、その売上を次回以降の来店へつなげる仕組みなのです。

他のお店でも使える
「未使用の価値を残す」設計

 ・ゴルフ練習場
プリペイドカードに残高を残してもらう。使い切っていない金額があることで、「次も同じ練習場へ行こう」という理由が生まれる。

 ・スクール/教室
複数回利用できる回数券を販売し、未使用分を残す。まだ受けていない授業やレッスンが、次回予約を入れる動機になる。

 ・コーヒー豆店
購入したコーヒー豆を店で預かり、来店するたびに一杯ずつ淹れて提供する。店に残っている豆が、次回来店やフード注文のきっかけになる。

まとめ

 居酒屋が、飲み残したボトルを店に置いておけるようにするのは、お客様への親切だけが理由ではありません。

 ・飲み切れなくても無駄にならないようにすることで、グラス注文からボトル一本の注文へ移りやすくし
 ・自分の名前が付いたボトルを店内に置くことで、「自分のものがある店」という心理的な所有感や常連意識を作り
 ・まだ残っているお酒と保管期限によって、「使わなければもったいない」という損失回避の心理を働かせ
 ・キープしたボトルを目当てに再来店した際も、料理、割りもの、席料などの売上を生み
 ・飲み切った後に新しいボトルを入れてもらうことで、購入と再来店が繰り返される循環を作る

 という、お客様が購入した「未使用の価値」を店内に残すことで、次回来店と継続的な売上を生み出す販促の仕掛けなのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。