失敗しないよう、完璧に準備してから動く――。一見正しそうですが、シリコンバレーではむしろ、失敗を「成長に必要なデータ」だと捉え、想定される損失を把握した上で必要なリスクをあえて取りに行くことが良しとされます。本稿では、世界のトップ層を見てきたエゴンゼンダーのパートナー・元日本代表でスタンフォード大学客員研究員の丸山泰史氏による新刊『「考えてばかりで動けない」がなくなる真面目の縛りを解く方法』から一部を抜粋・編集し、著者がスタンフォード大学で気づいた、成果を生むための「戦略的いいかげん」という考え方を紹介します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 井上敬子)
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「失敗」は最速で成長するための「不可欠なデータ」
私がスタンフォード大学に来て最も衝撃を受けたのは、シリコンバレーの人々の「失敗」に対する価値観の違いです。
世界的なベンチャーキャピタルが主催するイベントに参加したときのことです。
登壇したレジェンド級の起業家が、数百人の聴衆に向けて問いかけました。
「この中で、起業に失敗したことがある人は手を挙げてください」
私は起業をしたことがないので、手を挙げることなく、キョロキョロと会場を見回しました。すると、2~3割の人が手を挙げているのがわかりました。驚いたのは、このとき生まれた空気感です。
「かっこいい」
手を挙げた人たち、すなわち起業で失敗した人たちに対して、「戦場を生き抜いた強者」かのように、リスペクトする空気感が生まれたのです。手を挙げた人たちも、どこか誇らしげに見えます。
逆に、私を含め、手を挙げなかった人たちの間には「チャレンジせず、失敗も経験していないなんて恥ずかしい」というような、身の置きどころがないムードが漂いました。
日本では、失敗は「隠すべき不名誉」であり、真面目な人ほどそれを回避しようと必死になります。
しかし、シリコンバレーにおいて失敗は「経験豊かな証し」であり、最速で成長するための「不可欠なデータ」だと言えます。
こうした姿勢こそが、実は極めて高度に「計算された」戦略であることに私は気づいたのです。
「カリキュレイティッド・リスク」という経営判断
ビジネススクールの世界には、「カリキュレイティッド・リスク(Calculated Risk=計算されたリスク)」という言葉があります。
闇雲に危険に飛び込むのではなく、想定される損失を把握した上で、成長のために必要なリスクをあえて取りに行く。これが一流の経営者の条件とされています。
私が本書で提唱したいのは、この概念をマインドセットに応用した「計算されたいいかげん」、つまり「戦略的いいかげん」というあり方です。
日本語の「いいかげん」は、雑で無責任という意味にも使われますが、本来は、ほどよく、行きすぎない「良い加減」を指す、ポジティブなワードでもあります。
シリコンバレーの起業家たちは、決してノリだけで動いているわけではありません。
彼らは「人間は正解を求めすぎると、本能的に萎縮して思考が停止する」という性質を熟知しています。
だからこそ、彼らは「真面目VS不真面目」という二者択一をしません。
彼らは、「最高のアウトプット(成果)を出すという目的のために、日々のプロセスにおいては、あえていいかげん(良い加減)に不完全な実験を高速で繰り返す」という、一見すると激しく矛盾する2つのスタンスを平然と同居させているのです。








