「出しゃばるのはよくない」「周りに迷惑をかけたくない」――。周囲への気配りができる人ほど、そんなふうに一歩引いてしまいます。けれど、その「遠慮」は本当に相手や組織のためになっているのでしょうか。過剰な遠慮や謙虚さは本人の可能性だけでなく、職場に思わぬ影響を及ぼすこともあります。本稿では、世界のトップ層を見てきたエゴンゼンダーのパートナー・元日本代表でスタンフォード大学客員研究員の丸山泰史氏による新刊『「考えてばかりで動けない」がなくなる真面目の縛りを解く方法』から一部を抜粋・編集し、「遠慮」や「気配り」が行きすぎたときに起こる弊害を事例を引き紹介します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 井上敬子)
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「領空侵犯」を恐れ、やりがいを失うCさん(40代男性)
大手メーカーの部長を務めるCさんは、順調に出世してきた一方で、心の中には常に仕事に対する「虚無感」を抱えていました。
彼が何よりも恐れるのは、他部署の領域に口を出す「領空侵犯」です。
自部門の目標達成には心血を注ぎますが、他部門への踏み込んだ提案は、組織全体のためになると確信していても、決して言葉にしません。
「上下関係や形式にうるさい社風だから、越境して意見を言うのはマイナスだ」
「敵を作ることは出世の妨げになる」
「理想のリーダーとは調和を乱さず誰からも慕われる存在だ」
そんな防衛本能が働き、重要な提言であっても言葉をのみ込んでしまうのです。
経営陣からは「もっとはっきり意見を言え」と求められ続けていますが、「真に受けて直言すれば嫌な顔をされるに違いない」という強い固定観念をぬぐえず、「安全な範囲内」に閉じこもり続けています。
結果として、組織の大事な部分に自分の意志を反映する機会と、大きなやりがいを自ら手放してしまっていたのです。
「身の程をわきまえ」チャンスを逃すDさん(20代女性)
「やりたいことはあるけれど、自分から手を挙げるなんておこがましい」
Dさんもまた、自分の希望よりも「身の程をわきまえること」を優先し、チャンスを逃し続けてきた一人です。
あるとき、部署のリーダーがミーティングで「新しいプロジェクトに参加したい人いる?」と声をかけました。Dさんは以前から関心のあるテーマであり、強く惹かれていました。
しかし、彼女の頭の中では「立候補するということは、完璧にこなせるという宣言だ。自分なんかが手を挙げたら迷惑がかかる」という謙虚な思い込みが暴走を始めます。
さらに、「みんなに広く聞いている時点で、自分のような若手が求められているわけではない」と勝手に解釈し、口をつぐんでしまいました。結局、そのまま募集は締め切られたのですが、後日Dさんは上司から「君ならやれると思っていたのに、関心がなくて残念だ」と告げられたのです。
せめてミーティングの後に、上司にこっそり「私にも可能性はありますか?」と尋ねれば、道が開けたかもしれません。しかし、そんなちょっとした行動すら「身の程知らずだ」と拒んでしまう。その真面目すぎる「遠慮」が、彼女のキャリアを停滞させていました。
「完璧なリーダー像」がチームを潰すEさん(30代男性)
「リーダーとは常にメンバーの模範であり、いかなるトラブルも完璧に解決できる存在でなければならない」
そう信じて疑わないEさんは、マネージャーに就任したばかりの30代男性です。
「リーダーとして頑張らねば」と気合は十分ですが、膨大な業務量とプレッシャーにより、いつ心身が壊れてもおかしくない状態にありました。
彼の最大の課題は「メンバーに仕事を任せられない」ことです。
もちろん頭では、権限を委譲してサステナブルな働き方をしなければ、いつか自分が倒れて組織に迷惑をかけるとわかっています。しかし、いざ新しい案件を前にすると、「誰に任せるべきか」「説明にどれほど時間がかかるか」「もし失敗されたら、倍の時間をかけてリカバーすることになる」と様々なシミュレーションが駆け巡ります。
結局、指示を出すコストを考えるだけで時間が過ぎ、「自分でやったほうが早いし確実だ」と一人で抱え込んでしまうのです。
たまに仕事を任せたとしても、Eさんの中の「完璧主義」がそれを阻みます。部下が持ってきた企画案に目を通していても、「表記が揺れている」「グラフの色が見にくい」など、欠点ばかりが気になって、結局深夜まで一人で資料を書き直してしまいます。
「どうせ最後はEさんがやり直すから」と部下は指示待ちになり、彼は自らの手で「育たない組織」を完璧に作り上げているという悪循環の中にいました。
誰もが「真面目」で責任感が強いという残酷な事実
本書ではこの3人も含め、年齢も立場も異なる5人の「真面目すぎる」がゆえに周囲に悪影響を及ぼすエピソードを見てきました。
彼らのストーリーを振り返ったとき、忘れてはならない重要な事実があります。それは、彼らは誰一人として仕事をサボっておらず、能力が低いわけでも性格が悪いわけでもないという点です。
むしろ、誰よりも責任感が強く、周囲の期待に応えようとし、組織のために自分を犠牲にしてまで邁進しています。
つまり、全員が「極めて優秀で、誠実なビジネスパーソン」であるということです。
拙著『真面目の縛りを解く方法』では、なぜこのような「真面目の縛り」が生じるのか、またどうすればその縛りを解いていくことができるのかを解説しています。








