たとえば、人間の腸内には、数百種類約100兆個の微生物がいるとされています。ビフィズス菌などが有名ですね。しかし、たとえば人間の胃の中は、酸性が強過ぎて微生物が住める環境ではありません。逆に、牛などの胃の中はほぼ中性であり、多くの微生物が生息しています。
人間が草を食べられないのは、胃の酸性が強過ぎて草を分解出来る微生物が住めないからです。
実際、人間が消化吸収出来る植物の栄養素は5%程度ですが、牛は50~80%を消化分解出来ると言われています。
とはいえ、いくら植物を効率よく消化出来るといっても、草が持っている以上の栄養は得られません。サラダをドレッシングなしでモリモリ消化吸収出来るのはすごいことですが、草食動物であるバイソンなどが、あれだけの筋肉を得られるとは思えません。実はヘルシーに見える草にも、筋肉を育てる栄養素があるのでしょうか?サラダばかり食べていそうなモデルなども、いずれはムキムキになるのでしょうか?
草には筋肉を育てる栄養素は少なく、筋肉を形作るのにはタンパク質が必要です。タンパク質には動物性タンパク質と植物性タンパク質が存在し、一般に、日本人は野菜ばかりを食べて動物性タンパク質が伝統的に少ないので、欧米人に比べて体が小さいと言われています。
さすが欧米人。アメリカの子どもの4割が「ホットドッグは野菜」と信じているという、驚異の調査結果を出した国だけあります。
植物に含まれる筋肉の素となるタンパク質は非常に少ないです。では、草食動物はどこから筋肉の「素」を得ているのでしょうか?
ウシは微生物を消化して
筋肉の材料を得ている
実は草食動物は、消化器官内の微生物を消化して、筋肉を作っているのです。
つまりは、微生物を食べているのです。
まず、草食動物が飲みこんだ牧草などを腸内の微生物が食べます。微生物は牧草中の成分を分解し、腸内で爆発的に増えていきます。そうして増えた微生物を、今度は草食動物自身が消化し、微生物の体を構成するタンパク質を吸収して、筋肉を形作るのです。
牧草はただ微生物を育てる肥料で、草食動物の真の餌は微生物なのです。微生物を消化吸収しているなんて、すごい動物もいたものです。
しかし、これは別に草食動物だけの話ではありません。人間の糞だって、食べ物のカスはわずか6%ほどしかないのに、腸内細菌の死骸は10~15%もあります。ただしこの傾向が強いのは、ウシ・ヒツジ・キリンのように、胃で微生物を発酵させる反芻動物です。ウマやゾウは腸の後ろに草を分解する微生物がいるため、吸収効率が悪く、とにかく草を大量に食べることでタンパク質を集めています。
『生命・地球・植物・動物・宇宙をめぐる46億年の物語 科学の教養大全』(九和 律 Gakken)
草しか食べていない草食動物は、草から得られる栄養以外で必要な多くの成分を、体内の微生物が代わりに合成しています。また、草食動物はこうして結果的にすべての栄養素を体内に含むため、それを餌とする肉食動物もまた、健康的に育つのです。
肉しか食べていない肉食動物は、わざわざ健康に気を遣ってサラダを食べずとも、間接的には植物の栄養素を摂取出来るのです。
この意味で、肉は完全栄養食と言えなくもありません。
ただし肉食動物のように生で、血・内臓・骨髄まで丸ごと一頭食べた場合の話ですが。
超偏食な草食動物が健康に育つのはこういうわけです。ウシなどの草食動物は、本当は「微生物食動物」だったのです。







