ブルーモ証券CEO・中村仁氏の著作『AIバブル後の投資戦略』より、AI相場におけるインデックス投資偏重の危うさについてまとめたコラムを紹介します。
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現在進行形で問われているインデックス投資の有効性に潜むリスクとして、効率的市場仮説の揺らぎと市場のゆがみについて考察し、インデックス投資そのものを相対化すべきタイミングが来る可能性を指摘したい。
まず押さえておきたいのは、インデックス投資(パッシブ運用)の規模拡大が市場環境そのものを変えつつある点である。たとえば、パッシブ運用に投じられた資産規模は1993年には約230億ドルだったが、2021年には約8兆4000億ドルと約365倍にも増加し、市場全体に占める比率も0.5%から16%へと急拡大した。
この背景には「多くのアクティブファンドが市場平均(ベンチマーク)に敗北してきた」という事実がある。実際、過去10年で大型株ファンドの7割以上がS&P500指数に勝てなかったとのデータもある。このように「勝てないなら市場平均に乗るほうがよい」との合理的判断から、個人・機関を問わずインデックス投資への資金流入が続いてきたのである。
しかし、ここで効率的市場仮説の前提に目を向ける必要がある。効率的市場仮説は「市場価格には利用可能な情報がすべて織り込まれている」という仮説であり、インデックス投資の有効性を裏付ける理論的支柱でもある。だが経済学者グロスマンとスティグリッツは「市場が完全に効率的であるなら、情報収集にコストをかけても利益を得られないため、誰も情報収集をしなくなり市場の効率性は維持できない」というパラドックスを提起した。
これは、市場の効率性はアクティブ投資家の存在によって支えられていることを意味する。つまり、インデックス投資家(パッシブ投資家)が市場で大半を占めてしまうと、新しい情報をもとに価格を適正化する「価格発見機能」が低下し、市場が非効率化する恐れがある。
現在のところ、市場には依然として一定数のアクティブ投資家が存在し、この逆説が現実化するには至っていない。しかしパッシブ運用のシェア拡大が続けば、いずれ「インデックス投資の優位性そのものが自己破壊する」リスクをはらんでいるといえるだろう。
インデックス投資のもう1つの懸念は、時価総額加重方式ゆえの資金集中とモメンタム(勢い)偏重である。典型的な株式指数(S&P500やTOPIXなど)は時価総額の大きい企業ほど構成比率が高くなる設計である。つまり、指数連動ファンドへの資金流入は、その指数内ですでに巨大な時価総額を持つ銘柄に相対的に多く配分される仕組みだ。このメカニズムは、上昇相場において「勝ち組」銘柄へのさらなる資金流入を呼び込み、価格上昇に拍車をかけるという自己強化的な動きをもたらしやすい。いわばモメンタム追随の構図がインデックス運用の中で内在的に起こり得るのである。
実際、最新の研究でもパッシブ資金の流入が価格形成にゆがみを与える可能性が指摘されている。2025年に発表された論文『Passive Investing and the Rise of Mega-Firms』では、「パッシブファンドへの資金フローは、市場で過大評価された大型株の株価を不均衡に押し上げ、投資家による本来の価格訂正を抑制する結果、市場全体のバリュエーションを押し上げる」と結論づけている。
具体的にこの研究は、パッシブ資金流入後に時価総額上位の大型株ほどリターン上昇とボラティリティの増加が顕著であり、指数構成銘柄への自動的な資金流入が需給をゆがめている可能性を示した。このゆがみは、本来であれば割高と判断され調整されるはずの株価が下がりにくくなることを意味し、結果として市場全体が割高な水準に傾きやすくなるという問題をはらんでいる。
現に足元の米国株式市場でも、インデックス偏重の投資資金が特定の巨大ハイテク銘柄に集中している状況が見られる。以前触れた通りS&P500指数ではマグニフィセント・セブンだけで時価総額の約30~35%を占めるに至っており、インデックスファンドの再投資メカニズムがこれら巨大テック株の独走的な上昇を後押しする構図が浮かび上がっている。
インデックス投資家は幅広く分散しているつもりでも、実態としてはごく一部のセクター(=テクノロジー)と銘柄にポートフォリオが偏ってしまっている可能性が高いのである。これは、その偏重先でバブル的な過熱や急落が起きた際にポートフォリオ全体が大きく影響を受けるリスクがあることを意味する。
現在の株式相場が「AIバブル」に向かっていくとすると、米国市場では巨大テック企業の時価総額比重がさらに膨らんでいき、グローバルでは米国市場の時価総額比重が膨らむことだろう。この株価上昇がバブルであるならば、効率的市場仮説が成立していないことになり、インデックス投資家は時価総額の大きくなったテクノロジー企業の持分を過剰に持つことになり、バブル崩壊時のショックを大きく受けてしまう。
インデックス投資は「低コストで市場平均のリターンを得る」という一見理想的な戦略である半面、その成功が行き過ぎると市場の効率性低下や特定銘柄への過剰集中という副作用をもたらしかねない。
現状は決定的に否定されているわけではないが、インデックス投資の有効性が永遠に保証されるわけではない以上、状況次第では戦略の見直しやアクティブ運用の併用など柔軟な対応が求められるのである。







