世界的な株高が継続するなかで、日本では金利の引き上げ観測が高まっています。『AIバブル後の投資戦略』の著者であるブルーモ証券CEOの中村仁氏に、先んじて高金利が進み、高利回り預金・債券への資金シフトが起きている米国の現状などを解説してもらいます。
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投資マネーは静かに分散化に向かっている
2026年5月現在では世界の株式市場はAIブームに沸き、半導体を中心に企業業績は絶好調で、主要株価指数は史上最高値圏にある。しかしその陰で、これまで指摘したようなAI相場のリスクも認識されており、世界の投資マネーは静かに資産クラスや地域の分散化に動き出している。
株式相場が絶好調にもかかわらず、2025年には金価格が急騰し、米国の個人投資家の間では高金利を追い風に「無リスクで高利回り」が得られる預金・債券投資がブームとなっている。これらは、一見好調な株式市場の裏側で起きている「静かな分散化」の兆候といえるだろう。
2025年の市場で最も驚きを持って受け止められた動きの1つが、金価格の記録的な上昇である。通常、金は景気後退や金融不安などリスクオフ局面で資金流入しやすい「安全資産」だ。しかし2025年は米国株式市場が活況を呈しリスクオンの雰囲気が強い中にもかかわらず、金相場が大きく上昇した。金現物価格は2025年後半に史上初めて1トロイオンス=4000ドルの大台を突破し、2025年末時点で約4300ドルに達した。年間上昇率にして約65%もの急騰であり、この伸び率は同年のS&P500指数を大きく上回っていた。リスクオフでもない局面でこれほど金が買われるのは一見すると実体経済とかけ離れた動きに映るが、その背景には構造的な資金シフトがあると考えられる。
近年、地政学リスクや経済ブロック化の流れの中で各国が外貨準備の「脱ドル」志向を強め、中央銀行による金の大量購入が続いている。World Gold Councilによれば、中央銀行・公的機関による金の純購入は、2022年から3年続けて1000トンを超えた。2025年は金価格の上昇で購入ペースが鈍ったものの、それでも863トンと、2010~2021年平均の473トンを大きく上回った。つまり、2022年以降の4年間だけで、約4000トンの金が公的部門に積み増されたことになる。
こうした買いは、単なる相場追随ではなく、外貨準備の持ち方が変わりつつあることを示している。モルガン・スタンレーの分析では、金価格の上昇もあり、米国外の中央銀行が保有する金の時価は約4兆ドルに達し、米国債保有額の約3.9兆ドルを1996年以来初めて上回った。ドルはなお基軸通貨であり続けるが、各国は米国債を中心とするドル資産だけに準備を置くのではなく、金を通じて制裁、債務膨張、地政学リスクに備えようとしている。
その結果、金はもはや一時的なリスク回避先にとどまらず、長期のリターン源や資産保全の柱として存在感を増している。2025年の金価格急騰は、実体経済の動向というよりも、こうした長期的な資産構成見直しの動きを反映したものだといえるだろう。
高金利下で、高利回り預金・債券への資金シフトが起きている
さらに、米国の個人投資家の間では「高金利を活かした預金・債券投資」ブームが起きている点にも注目すべきである。米連邦準備制度理事会(FRB)による度重なる利上げで政策金利が5%台に達した結果、預金やマネーマーケットファンド(MMF)など安全資産から得られる利回りが飛躍的に向上した。
たとえば米国のオンライン銀行や証券会社が提供する高利回り預金口座(High-Yield Savings Account)は最も金利が高かったタイミングでは年利5%前後の金利を提示しており、その水準は従来型銀行の平均預金金利(わずか0.4%弱)とは桁違いである。リスクを取らずに年間5%もの利息が得られるとなれば、株式などリスク資産に大きく投資しなくとも十分なリターンが期待できる。実際、預金者が高金利を求めて動いた結果、米国のマネーマーケットファンド残高は2025年に約8兆ドルと過去最高を更新した。投資マネーがこぞって安全資産に流入したこの現象は、“無リスクでそこそこのリターン”という環境に個人が敏感に反応したことを物語っている。
債券市場にも個人マネーの関心が集まっている。米国債10年利回りが4~5%台、優良社債(投資適格債)も5%台半ばまで上昇し、債券で安定的な収益を得やすい状況が久方ぶりに訪れた。そのため従来株式一辺倒だった個人投資家のなかにも、預金や国債・社債などの購入にシフトする動きが広がっている。証券会社各社でも個人向け債券販売が活況を呈し、「5%を無リスクで稼げるなら株に投資する必要がない」といった声も聞かれるほどだ。まさに高金利環境下で「債券という資産クラス」が復権し、ポートフォリオに占める安全資産の比率を高める動きが進んでいるのである。







