『AIバブル後の投資戦略』の著者であるブルーモ証券CEOの中村仁氏は、米国株見通しについて3つのシナリオを紹介したうえで、いずれのシナリオにおいても、個人投資家が直面する課題は「アップサイドに張り続けてよいのか」という点に集約されると主張します。
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これまで、オルカン誕生以降の資産運用環境が何を前提にしており、今後のリスクはどこにあるかという議論をしてきた。ここでは現在の相場環境を支えている米国株の未来に向けてのシナリオを確認することで、「AIバブル後」への備えを考えたい。
米国株見通しの3つのシナリオ
現在の米国株市場はAIブームによる空前の強気相場が続いているが、その先のシナリオは大きく3つ考えられると言われている。「AI生産性革命」「長期成長率回帰」「景気後退」という3つの未来像である。
それぞれのシナリオは、市場環境やリターン見通しに大きく異なる影響を及ぼす可能性があり、実際に世界最大の運用会社ブラックロックをはじめとする機関投資家もこうした前提シナリオを想定して長期見通しを立てている。
まず「AI生産性革命」シナリオは最も楽観的なケースである。生成AIや自動化によって企業の生産性が飛躍的に向上し、米国経済の成長率が従来のトレンドを上回る期間が続くという想定だ。この場合、企業利益の急拡大が現在の高い株価バリュエーションを正当化し、株式市場はさらに上昇余地を持つ。ブラックロックの予測でも、このシナリオの場合は米国株の10年長期成長率は年率15%程度を維持するとしている。シナリオが実現すれば、米国株の強気相場が当面継続し、投資家は引き続きハイテク株への集中投資で恩恵を受けられるだろう。
次に「長期成長率回帰」シナリオはより中立的なケースで、各金融機関のベースケースシナリオになっている。直近のAIブームによる高成長が一巡すれば、米国経済の成長率や株式リターンは徐々に平常運転に戻る(平均回帰する)という見立てに基づいている。過去の超過リターンによって割高になった米国株は今後10年かけて年率5~6%程度の穏やかな成長に落ち着き、高すぎるバリュエーションの見直しにより、他の地域に比べ相対的に低いリターンにとどまる可能性が高い。
このシナリオではただちにバブル崩壊のような急落は起きないものの、全世界株式インデックスを含めた米国株中心の投資を続けても以前ほどの恩恵は期待できなくなる。長期停滞的な低リターン時代に移行し、米国に集中した時価総額加重平均の株式ポートフォリオは相対的に見劣りしていくだろう。
そして「景気後退」シナリオは悲観的なケースである。AIバブル崩壊による資金逃避など何らかの引き金により米国経済は景気後退に陥り、米国株が大幅下落する展開だ。これは2000年のドットコムバブル崩壊後に米国株が低迷した状況に近く、数年内に訪れるかもしれない荒波のシナリオである。
レイ・ダリオも金融緩和への転換が1999年末や2010年のような最終局面の急騰を誘発し、その後に引き締めによってバブルが弾ける展開を想定しており、まさに「最後の歓喜の後に急落が来る」という見通しを示している。
要するに、この悲観シナリオでは現在の強気相場は近い将来反転し、大幅な株価調整が避けられないことになる。このシナリオの場合では、米国株の10年長期成長率は1%未満になるというブラックロックの試算もあり、10年間の長期投資でも米国株中心の投資からほとんどリターンが得られないという結果になる。
振れ幅のあるシナリオで個人はどう動くべきか
このように見通しには幅があるものの、いずれのシナリオにおいても個人投資家が直面する課題は「アップサイドに張り続けてよいのか」という点に集約される。楽観シナリオを信じてAI相場と米国株の上昇に賭け続ける戦略は、一見もっともなようで実は大きなリスクをはらんでいる。仮に景気後退シナリオが現実になれば、米国株中心のポートフォリオは壊滅的な打撃を受けかねない。一方で、だからといって現時点で米国株を完全に手放してしまうのも容易ではない。
レイ・ダリオの指摘のように、バブル的な過熱相場はピーク直前に最後の上昇局面を迎える可能性があり、仮にバブルだとしても途中で降りてしまえばこの「最後のご褒美」を取り逃がす恐れがある。言い換えれば、楽観に賭けてフルベットを続けるか、悲観に備えて逃げるかの判断が極めて難しい局面なのである。
では個人投資家は具体的にどう動くべきか。キーとなるのは自分の相場観と取れるリスク量だ。もし自分の分析力や相場を読む力に自信があり、なおかつ短期的にはAI革命による株高が続くと考えるなら、当面はテクノロジー株に集中投資してリターンの極大化を狙う戦略もあり得る。事実、ここ数年は生成AI関連の大型テック株が桁外れの超過収益を上げており、それらに集中投資できた投資家は大きな恩恵を享受した。プロ並みの洞察力を持つ一部の投資家にとって、強気相場が続く間はその波に乗り切ることが最善の戦略となるだろう。
しかし大多数の個人投資家にとっては、今こそ「適度な分散投資」を真剣に検討すべき時期であるといえよう。相場の転換点を正確に予測するのは専門家でも困難であり、特に景気後退シナリオのような急落リスクに備えるにはポートフォリオの防御力を高めておく必要がある。幸い、市場ではすでに将来の荒波に備える動きが静かに始まっている。表面的には強気一色に見える市場の裏側で、実は次の下落に備えて静かにポジションを調整するマネーの流れが生じているのだ。この事実は、いま投資家が取るべき行動を暗示しているだろう。
足元のAI特需による上昇相場は魅力的だが、それに酔いしれてポートフォリオの偏りを放置すれば、いざ調整局面で取り返しのつかない損失を被る危険がある。幸い先行する機関投資家たちは上昇相場の恩恵を享受しつつも着実に守りを固め始めており、その戦略に個人も学ぶべき時期に来ている。現在の強気相場の熱狂と将来のリスクシナリオを冷静に天秤にかけ、攻守のバランスを取れた投資戦略こそが、不透明な「AIバブル後」の時代を生き抜く最善策なのである。







