この1年を振り返って、大きな不安やストレスもなくスムーズに成果を出せていたなら――それは喜ばしいことである一方、「学習や成長の観点からは、天井にぶつかっている状態」だと『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは指摘します。特に危ないのは、実績も評価も手にした40代以降。人生100年時代の停滞を防ぐ鍵、「コンフォートゾーンを抜ける」技術について聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

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研修が業務につながっているか?

――成長し続ける組織と、停滞する組織を分けるポイントは何だと思われますか。

山口周氏(以下、山口):ポイントのひとつは、日常の「業務」そのものを学習の場にできているかどうかです。

高収益と人材育成を両立している組織が持つ特徴を捉えたコンセプト「発達指向型組織」の考え方では、「研修」と「業務」を分けません。通常、私たちは日常業務を学習の場とは考えず、ミスなくソツなくこなそうとしますよね。学ぶのは研修の場、というわけです。

もちろん研修は大事です。欧米企業と比較すると日本企業の人材育成投資は1桁どころか2桁少ないので、もっとアクセルを踏むべきだと思っています。ただ、研修には限界もあります。たとえば、期間が限定的であること、日常業務の文脈と切り離されていること、参加できる人が一部に限られること、開発の対象が組織ではなく個人に限られることが挙げられます。だからこそ、人々の発達・成長は「研修の場」だけでなく「業務の場」においても追求されるべきで、言うなれば「毎日を研修にする」ことが求められるのです。

学習・成長は「コンフォートゾーンから抜ける」ことでしか起きない

――日々の仕事を成長の場にするには、どうすればいいのでしょうか。

山口:鍵になるのが「コンフォートゾーンから抜ける」ことです。ここでいうコンフォートゾーンとは、大きな心配がなくリラックスして取り組める状態のことです。

新しい仕事を始めるとき、たとえ難易度の低い仕事でも私たちは不安です。そこから徐々にS字の曲線を辿るように、つまり最初はゆっくりと、慣れてくると急速に、そして上達しきると再びゆるやかに、というカーブを描いて学習・成長し、やがて非常にうまくこなせる段階に至ります。それがコンフォートゾーンです。

上司からすれば安心して任せられ、本人も自信を持って取り組める、ストレスの低い状態ではあるのですが、あまりに長くここに居続けると、学習・成長は停滞します。そこで次に難易度の高い仕事にチャレンジすると、また最初のストレスと不安を感じ、再びS字曲線を辿って成長します。このサイクルは、人生で学習・成長を続ける限り繰り返されます。私たちの学習・成長は「コンフォートゾーンから抜ける」ことでしか実現できないのです。

40代からの「みっともない姿は見せられない」という罠

――年齢を重ねるほど、コンフォートゾーンを抜け出すのが怖くなりそうです。

山口:この停滞が発生しがちなのが、特に40代の「人生の夏の後半」からです。この年代になるとそれなりに実績もあり、評価されている方が多く、「みっともない姿は見せられないな」と思うようになります。すると、自分の経験の範囲内でやれる仕事ばかりをやり、難易度の高い仕事や新しい環境を避けがちになります。

これは「最終的にどういう人生を生きたいのか」に関わる問題なので、放っておいてくれ!という人に無理強いするつもりはありません。ただ、人生が長期化し、働く期間が長くなればなるほど、この「みっともない姿は見せたくない」という恐れは、その人の人生が大きく開かれる可能性を阻害するようになります。

発達指向型組織を研究したロバート・キーガンらの調査が明らかにしたのは、私たちが必死に隠している「弱さ」「みっともなさ」にこそ、私たちが成熟していく機会が潜んでいるということなのです。